【履物laboはきものがかり】第4回 開催報告
辻屋本店「履物labo はきものがかり」の事務局、しずこです。
早いもので第4回目を迎えた和装履物研究。研究員の皆様の任期も半分を過ぎました。
本日の座学は辻屋本店の挿げ職人 小林さんによる鼻緒挿げの話でした。
ーー和装履物を快適に履くための「挿げの極意」ーー
初めて職人さんに挿げてもらう人は、緩いのか、きついのか、ちょうど良いのか、感覚が解らない事が多いそう。
辻屋さんでは挿げる最中に足を入れてもらうので、解らない場合は職人さんに質問しながら挿げてもらうと安心ですね。
■足の形状と挿げの関係
小林さんはまずお客様の足を見て、足の形を3D画像のように捉えて前緒と後緒のバランスを考えるそうです。
それぞれの足の幅や甲の高さ、指の長さなどに合わせて、鼻緒全体で足を支えるように挿げているのですって。
■挿げ職人がすすめる履き方とは?
前ツボと指股に少し隙間をつくって、奥まで指を押し込まないように履くのが理想。
昔の日本人はすり足のように歩いていたから、今よりももっと突っかけて履くように鼻緒をきつ~く挿げていたそうです。
現代の日本人は靴の歩き方になっているから、そこまで突っかけて履くのは無理。辻屋さんも今の人たちが履きやすいように、ほど良い位置に収まるように挿げているから大丈夫です。
ーー履物専門店の「挿げ」とは?ーー
「挿げ職人」といってもすべて同じではないのです・・・
■デパートや呉服店、着付け教室などの催事にいる挿げ職人は誰なの?
これ、本当に謎でした!
あのかた達は基本的にフリーの職人さん。呉服店や催事に並べる履物をうけおって挿げています。
つまり、普段はお客様の足を見ずにS.M.Lのサイズごとに同一に挿げるのが仕事。
履物専門店の職人さんのように、それぞれのお客様の足を見ながら足に合わせるという挿げ方をしていません。
■履物専門店と履物メーカーや呉服店の挿げに関する考え方の違い
履物専門店は、目の前にいるお客さんの足の大きさや形、歩き方や好みに合うように鼻緒を挿げる。
一方、メーカーや呉服店は、草履のサイズごとに均一に挿げる。
そして、下駄や草履は靴と違ってサイズが細かく分かれていないため、一つのサイズ、例えばよく見かけるフリーサイズでは22.5~24.0センチの人が誰でも履けるようにするため、だれが鼻緒を引っ張っても緩むよう「伸びしろ」をつけて挿げているそうです。
ここには、売り手側の都合もあります。
誰もが足の入らない履物は購入しませんが、技術を持たない販売店の人でも引っ張り、緩めさえすれば、足が入る履物としてお客さんに提供することができます。
けれども、仮に22.5cmや23.0cmのサイズの方などが鼻緒を緩めず(引っ張らずに)購入していかれた場合には、その方たちにとっては、後々、使用していく中でどんどん鼻緒が伸びていく履物となってしまうのです。
ここに、履物の挿げに対する専門店と門外の店で、大きな考え方の違いがあると小林さんはおっしゃっていました。
ちなみに、辻屋さんではメーカーさんから仕入れる履物はすべて職人さんが鼻緒を挿げるそうですし、
仮にメーカーで鼻緒を挿げてしまっている履物も、すべて挿げ直しをしてから提供しているそうです。
■履物専門店の挿げ方のもそれぞれ違いがある
履きやすさはもちろんですが、辻屋さんのこだわりとしては、ひっくり返しても綺麗な紐の処理。(画像参照)見えない部分までのこだわりが!本当に綺麗です!
ーー挿げの違いに繋がる根留めについてーー
根留めとは、鼻緒の端部分のワタを抜いて結ぶ作業の事。挿げの中でも重要な部分なのだそうです。
カンカンカン!シュッツ!
瞬く間に根留めをすると一同、おおーっ!と声が上がります。
小林さんがやると何気ない仕事に見えますが、これがちゃんとできていない履物が実に多いのだそう。
しっかり根留めをしていないと、足の力で引っ張られた時に鼻緒が緩んだり、抜けてしまうのです。
1本留めは特に技術を要しますが、作業が早くできるし、修理などいろいろ応用が利く。
対して3本留めは力が無くても出来るので、女性の職人さんはこちらが多いそうです。
ひとえに根留めと言っても用途により色々なやり方があるのですね。
ーー購入後、鼻緒の再調整は必要?ーー
■再調整しないとどうなるか?
履いているうちに鼻緒は「必ず」緩むので調整は必要。
ちなみに事務局しずこは浅草に行く度に辻屋さんに立ち寄り小林さんに履物の状態を見てもらいます。こまめにメンテナンスしておくと、履物の持ちも違うと実感しています。
■調整できない構造の草履とどっちが得か?
調整できない構造の草履は底に調整穴が無いので雨の日も履けるというのがメリットですが、鼻緒の調整ができません。鼻緒が緩くなったら履けなくなってしまう。
ここをどう考えるかは利用者しだいです。
ーー研究員の考察ーー
履物専門店で買うことの価値
今回の鼻緒のすげ方についての話ほど、職人さん常駐の履物専門店で買うことの価値を感じたことはありませんでした。
足にフィットした快適性と安全性をしっかり叶えるのは鼻緒のすげ方。
草履や下駄を足のどの部分で支えているのか…足の甲にあたる鼻緒の裏面全体だと知って驚きました。
言われてみればなるほどなのですが、考えてもみませんでした。
呉服屋さんで売られている履物は問題山積み。
履物専門店、中でもすげ職人の卓越した技が見込める店で買いたいと強く思いました。
間違った知識が広まっていることの怖さ
今回のお話を聞き、挿げ方をひとりひとりの足に合わせるのか、サイズ別で一律にするのか、専門店と呉服店などでは履物に「考え方の違い」があるという点にとても納得しました。
鼻緒をひっぱって緩めるのはよく聞くし、ネットでも見るので普通のことだと思っていたけど、既製品の事情やその背景を知り、間違った知識が広まっていることの怖さを感じました。
はきもの専門店が少なく、挿げ職人さんも少ないとなると今後の和のはきものはどうなってしまうのでしょうか。
昔と今では履き方が違う
現代の鼻緒はほとんどナイロンが入っているから切れないけれども伸びるし、鼻緒の綿がやせて緩んでくるため調整は必要。
日本人が靴を履く生活になって歩き方が変わり、それにより鼻緒の挿げ方も変わった。
以前、草履を履いてる方を見かけた時、歩くたびに着物のうしろの裾が10cm位ペロンペロン捲り上がってるのが不思議でした。
あまりキレイじゃない、なんでだろう、と思ってたけど、靴のように蹴り上げて歩いてたからだったようです。昔の映画とかで歩き方を参考にしてみたくなりました。
挿げの経験値が違う
これまで安心して直しをお任せ出来る職人さんのいる履物専門店で購入し、直して貰っていたため、百貨店などの催事などに来ている職人さんにはやってもらったことがないけれども、同様の技を持っていると思っていた。
しかし、そういう方はフリーの職人で、主にメーカーの挿げをしているため、SMLといった決まったサイズの挿げは得意でも、目の前にいる人に合わせた挿げの経験値が少ないというのは初めて知った。
そして根留めに種類があり、それが挿げの違いに繋がるというのは興味深く、職人さんの技と経験値の大事さをあらためて知った。
また、呉服屋さんに卸されている履物は鼻緒にわざとアソビが作ってあるため緩みやすいというのも驚いた。
これからも安心出来る職人さんのいるお店で購入し、直して貰うのは変わらないと思うが、まわりの着物人に情報を提供し、役立てて貰えたら良いなと思う。
オーダーメイドの挿げとレディメイドの挿げ
履物専門店の挿げと、デパートや呉服店などの挿げには大きな違いがあることを知りました。
挿げ方に違いがあるのは、履物専門店とメーカーや呉服店での売り方や目的が大きく異なるから。
専門店は、履く方ひとりひとりの足を見て、形の特徴や、履き心地、好みに合わせて「オーダーメイド」で挿げることが目的。
一方、メーカーや呉服店は、いわゆる「レディメイド」の挿げ。各サイズのそれぞれの範囲内で色々な方が履けるよう(22.5の草履を23.5の方でも履けるように)、多少のゆるみが起きるように挿げるので、目的が全く異なるということ。
また一定に挿げることをよしとする。製品ごとにバラつきがあったらよくないですものね。
今回はこの違いを知れたことが、大きな学びだったと思います。
道具を見ることができるのも、目の前で挿げてもらえる醍醐味
親指と人差し指の間が痛くなることは仕方がないと思っていたけれど、専門店の職人さんはお客さんの足を見て挿げるから、個々人に合ったものを提供することができる。
挿げの違いにつながる「根留め」という工程は、仕上がりへの影響度が70%近くを占める重要な作業。
綿の抜き加減、紐を縛る位置や加減等により、履きやすさに格段の違いがでるという。
「くじり」や「とんかち」等、なかなか実際に目にする機会のない道具を実際に見ることができるのも、目の前で挿げてもらえる醍醐味かもしれない。
巷にあふれる「足が痛いときは鼻緒をひっぱって伸ばしましょう」という方法は、決して解決策ではなく、かえって状態を悪化させてしまうことがよく分かった。
ーーannKoginこぎんざし鼻緒と台のコーディネートーー
前回前ツボを決めた鼻緒が出来上がってきたので、いよいよ台とコーディネート!
皆さん思い思いの台を合わせて楽しそう♪
鼻緒の色は勿論ですが、前ツボと台の側面の色が合っているとまとまる!など、まさに研究にふさわしい発見も!
皆さんの楽しそうな様子が嬉しく心に響きます。素敵な作品をつくってくださったアンさん、ありがとうございました。
研究員の研究結果はこちら。それぞれ個性が光る履物に!みんな欲しくなってしまう 笑
ーー第4回を終えてーー
今回も研究員の皆様には、和装履物専門店ならではのマニアなお話や体験をしていただけたのではないかと思います。
この機会を通して、お読みいただいている皆様にも挿げの大切さを知っていただけたら嬉しいです。
1人でも多くの方が「下駄も草履も痛くないのが普通」になってもらえたらと思います。
誰が挿げた履物か?がとっても重要!
まずは痛いのを我慢しないで、職人さんがいる専門店に相談に行ってみましょう♪
履物laboはきものがかり 事務局 しずこ
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