第64回 林家たい平一門女将 田鹿千華 さん

林家たい平一門でおかみさん業をこなしながら、3人のお子さんの母として仕事に家事に忙しい日々の中、いけばな教室を主宰されている田鹿千華さん。
私、富田里枝も3年前から教室に入れていただき、いつも元気な千華さんのパワーをいただいています。

田鹿千華(たじかちか)
宮城県仙台市出身。株式会社リクルート本社で人材開発部採用担当、広報室勤務後、NHKBS初代スポーツキャスターに。『Jリーグアワー』『Jリーグダイジェスト』『ワールドカップサッカー』などを担当。
その後、大橋巨泉事務所に所属、文化放送『小倉智昭の夕焼けアタックル』、政府広報番組TBS『クローズアップ日本』、NHK総合『羽生善治将棋の時間』などテレビ・ラジオで活動。
96年落語家 林家たい平師匠(当時はまだ二ツ目でした)と結婚後はおかみさん業に専念。現在は、たい平事務所代表で2男1女の母。
ブログ「千華のおかみさん日記」 https://profile.ameba.jp/ameba/sen-no-hana0130/

最終的に自分の花を表現できる〈いけばな〉

富田里枝: まずは、いけばなのことをお聞かせください。千華先生ご自身がいけばなを始められたのはいつからでしょうか?

田鹿千華: 中学1年生の時に、クラブ活動で一年間だけ華道クラブに入ったのが最初です。
それからずっと後になってふと、また学びたいと思い40歳過ぎてから再開しました。いちばん下の子どもが小学校高学年になり、ちょっと時間ができたので。

富田里枝: お子さん3人の子育てが一段落したのですね。他の習い事ではなく、いけばなを選んだのは何故でしょうか?

田鹿千華: それはね、夫が落語会や講演会があると、花束をいただいてくるんですね。せっかくお花がたくさんあっても、大きな花瓶にドサッと入れるだったのですけれど、これだけのお花があったら、いけばなにしたらいくつもの作品がつくれるなぁと思って。

富田里枝: フラワーアレンジメントではなかったのですね。

田鹿千華: なんとなく、いけばなの方がしっくりきたのかな。仙台の実家では、母が池坊(いけのぼう)という流派の華道を習っていて、玄関と床の間にはいつもお花が活けてあり、なんとなく活け方などは見ていました。母は庭で大輪の菊を咲かせるのも好きでしたね。父は盆栽が趣味でした。

富田里枝: ご両親の影響もあったのかもしれませんね。いけばなの流派には池坊や小原流、古流などもありますが、草月流を選んだのは理由があるのですか?

田鹿千華: 自宅の近くで通える教室がないかなぁとインターネットで調べていたところ、草月流の作品が目に留まりました。いけばなを学び続けて最終的に自分の花を表現できるようになったとき、草月流がいちばんいろんな技術を学ばせてくれそうだな、と考えたのです。

富田里枝: 自分の表現?

田鹿千華: はい。草月流は伝統を重んじ、昔ながらの技術を伝承しながらも「時代と共にいけばなはある」と教えています。
外国から入ってくる新しい植物も使うし、床の間だけではなくデパートや駅のディスプレイだったり、カフェの窓辺だったり、時代と共に変化するものをキャッチしています。
このことは落語にも通じます。古典落語だけでなく新作落語があったり、時事問題を取り入れたりして、その時代に合った笑いをつくっていきますね。

富田里枝: なるほど!

田鹿千華: 里枝さんも昔、いけばなを習っていたとおっしゃってましたよね?

草月流4級のお免状をいただきました♪

富田里枝: 20代のころ、地元の浅草で10年程通っていました。再開しようとはまったく考えていなかったのですが、数年前、引越しの時に箪笥の奥から古流のお免状が出て来たのです。ちょうど同じ頃、以前勤めていた会社の上司の告別式へ向かう途中で、スーパーの買い物袋を提げた千華さんとバッタリお会いしたんですよね。

田鹿千華: そうでしたね~ うちの近くの商店街でしたよね。

富田里枝: めったに行かない土地で、お世話になった方にお別れした日、偶然お会いするなんて。その時、いけばな教室にお誘いいただいて、これは何かのご縁かなと思い、何十年ぶりかでやってみようと。

教室のようす(2019年に撮影)

田鹿千華: やってみていかがですか?

富田里枝: 楽しいです!草月流って、かなり斬新なイメージでちょっと不安だったのですが、実際始めてみたら理論的なので驚きました。昔習っていた頃はテキストもなかったし。

田鹿千華: いけばなの560年の歴史で先人たちの知恵が、あのテキストに詰まっているのです。どの角度で、どの長さで活ければどうなるのか。基礎を学んでから自分のスタイルを発見していくわけです。

富田里枝: 草月展など拝見すると、なんだかとてつもなく凄い作品が並んでいて、ここまで到達するのはまず無理だなと。千華先生が出展されている作品も、とてもエネルギッシュに感じます。

田鹿千華: 本当ですか?!私はまだまだですよ。

いけばなが上手になりたいから教え始めた

富田里枝: 展覧会のだいぶ前から構想を練るのですか?

田鹿千華: はい。1~2ヶ月前に花材の種類や大きさ、花器などをデッサンして提出し、それぞれが引き立つような配置をお家元が考えてくださいます。

富田里枝: お花も膨大な種類がありますから、選ぶのも悩みそう。

田鹿千華: 私自身は、いつも自分のお弟子さんたちに見てもらいたいと思って考えます。あまりに奇をてらったもの、理解されにくいものは作らないようにしていますね。私はまだ教室を始めて短いし、お弟子さんたちも歴が浅いので。最近の出展作でいえば、皆さんがレッスンで使う木瓜を使いました。

富田里枝: なるほど。

田鹿千華: 持ってみてわかったのは、お弟子さんって年齢が上でも下でも、我が子のような気持ちになるんですよ。

富田里枝: そうなんですか。

田鹿千華: 私のお弟子さん達は経営者とか芸能関係、アーティストなどが多いです。だから私はいつもお弟子さん達のお仕事のことまで思いを馳せております。みんなそう感じてないかもしれないけど(笑)

富田里枝: 先生ご自身も今もどこかで習っていらっしゃるのですか?

田鹿千華: 私は初めから家元本部教室に入っていて、月に3回から4回は習いに行っております。

富田里枝: そんなに!

田鹿千華: はい。いけばなは私にとって趣味ではありますが、上手になりたいから教え始めたのです。自分で理解していないと教えられませんから、教えることで自分の成長に繋がります。現在、私のお教室には70~80名のお弟子さんがいて、それだけの数の作品に接することができるので、私自身とても勉強になります。

富田里枝: 生徒さん、どなたとお話ししても皆さん明るいし、お教室の雰囲気がいいですよね。お稽古以外にも食事会や落語を聴きに行ったりと、楽しいイベントも企画してくださるし。
イベントといえば、いけばな以外でも「和の美を遊ぶ会」というお着物で日本の伝統文化を学び楽しむランチ交流会を主催されていますね。

田鹿千華: はい、コロナ禍になってからはあまり開催できておりませんが、毎回歌舞伎や邦楽関係のゲストをお招きして、100名近いお着物姿の参加者が集います。今年は8月に感染対策に注意しながら『ゆかたdeたい平落語を楽しむ会』を開きました。

感染防止に配慮しながら開催した落語会

落語を伝承してゆくという役割

富田里枝: 私も参加させていただきましたが、ご長男のさく平さんの高座を初めて拝見して!昨年、たい平師匠に入門されたのですよね。

田鹿千華: はい、大学卒業後に入門して1年半の見習いを経て、2020年の9月から前座として楽屋の仕事を毎日励んでおります。

富田里枝: 落語家になると聞いたとき、反対しなかったのですか?

田鹿千華: 反対はしませんでした。歌舞伎のおうちと違って、落語家は親が売れていたとしても、子どもが売れるとは限らないし、逆に皆さんの見る目は厳しいかもしれませんが、伝承していく役割というのも悪くないのでは、と思いましたし。

富田里枝: ご本人もそれはわかっているのでしょうね。

田鹿千華: 父親とはタイプが違うから、と息子本人も言ってますし、まだ前座ですから海のものとも山のものともわからない。ただ社会人として基本的なことは身につけて欲しいです。ちゃんと朝ごはんを食べる、遅刻はしない、とか。

富田里枝: 先日、休みの日にふらっと上野の鈴本演芸場へ入ったら、たまたまさく平さんが前座で入っていたんですけど、客席から見ていても師匠たちに可愛がられているのがわかったし、本人も楽しそうで、自然体に見えました。

田鹿千華: 本当?!嬉しいです!やっぱり、先輩方に可愛がっていただけるのは大事だと思います。たい平さんも二つ目の頃、昭和の大名人と呼ばれた師匠に呼ばれていつも地方の仕事はお供をさせてもらって、とても勉強になったと言ってました。

富田里枝: 千華先生はそもそも落語とご縁があったわけでは…。

田鹿千華: たい平さんと出会うまで、まったくなかったです。ドライブなんか行くと普通、自分の好きな音楽かけるでしょ。たい平さん、落語かけるんだもの。

コロナのお陰で気づかされたこと

富田里枝: 落語家の女将さんになって、驚いたこととかありますか?

田鹿千華: そうですねぇ。お中元・お歳暮は直接ご自宅へ持って伺う。その時にアポをとってはいけない。目下の自分が師匠の時間を取ってしまうことになるから。訪ねたときにご不在だったら待ってる、などなど。

富田里枝: なるほど、まだそういったしきたりが残っているのですね。うちも同じですがお正月は休めない職業ですよね。

田鹿千華: はい、元旦から寄席の掛け持ち。ホテルや企業に呼ばれての初笑い、その合間にテレビやラジオのお仕事がありますので、1月はとくに忙しいですね。

富田里枝: 長い休暇はとれない。

田鹿千華: それはもう。でもコロナ禍を経験したら、お仕事があるのがどんなにありがたいかを感じます。仕事あっての芸人、お客さまあっての私たちです。

富田里枝: たしかに。

田鹿千華: どの業界も大変ですが、エンタテインメントはとても打撃を受けています。でも、コロナ禍になって家族の結束がより強くなった感じがしています。たい平さんや子ども達がどう思っているかはわからないけれど、私は家族の一体感があるなぁと。いつか乗り越えられる、今が大事なんだって、気持ちが引き締まっているのです。

富田里枝: そうなんですか。

田鹿千華: ええ、ちゃんと情報をキャッチしなきゃとか、家族やお弟子さん達のメンタルに寄り添ってあげたい、とか。なんていうか、コロナのお陰で「みんなのことを守りたい自分」に気づかされたって思うんです。

富田里枝: うーん、愛情が深いんですねぇ!弟子としても心強いです。本当に大変な状況が続きますが、先生の明るさと包容力のお陰で、これからもがんばれそうです。今日はありがとうございました。

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