第63回 着物コーディネーター さと さん

インターネットのお陰で世界は狭くなったけれども、膨大な情報の取捨選択を含め、どこかの誰かとどう繋がるか、ITリテラシーはこれからますます必要となってきます。
さとさんのSNSでの発信力はすごいなぁといつも感心していましたが、最近は中国のSNSも始めたということで、ぜひ詳しく聞きたいとインタビューさせていただきました。

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着物コーディネーター さと
普段のファッションとしての着物の浸透、再定義を目指す。
2013年よりハンドメイドの和装小物販売イベント等を手がけ、着物スタイリストとしても活動。
・下北沢音楽祭(京王電鉄、小田急電鉄協賛)
・株式会社やおきん うまい棒×クリエイターズ2019
・京王マチアルクイズ「井の頭線貸し切り特別列車」出演者スタイリング 他
着付けレッスン、ワークショップも不定期開催中です。
Webサイト⇒SATO KIMONO

アンティーク着物が好きになったのは、その銘仙との出会いからです

富田里枝: さとさんが着物を着るようになったきっかけはなんですか?

さと: 母が着物好きだったので子どもの頃からお正月には着物を着せてもらっていて、親戚に「可愛いわねー!」って褒められるから気を良くしたのが始まりかな。

富田里枝: その後は?

さと: 高校生の頃、好きなバンドのライブに浴衣を着て行ったらとっても褒められて、自分で着られるようになりたいと思い、母に教えてもらったんです。
それから成人式で、従姉妹たちが着たのと同じ振袖を着たのですが、前撮りの時は違う振袖着たいなと思って、自分でお金を貯めてレンタルしたんですね。そうしたら、手触りや質感、色なんかがレンタルした着物より、親戚で着回した昔の着物のほうがずっと良いなーと感じたわけです。

富田里枝: 成人式の当日は親戚で着回していた振袖を着て、その前に撮影用でレンタル振袖を着たのですか?

さと: そうです。母は3姉妹で、おじいちゃんがそれぞれに振袖買ってやる!と言っていたのが一枚で予算がなくなったみたいで(笑)。

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 成人式の写真をさとさんにお借りしました

富田里枝: よほど良いものだったのでしょうねぇ。

さと: おじいちゃん、頑張ったみたいです。その後は、22~23歳くらいの頃、親戚から銘仙の着物をいただいたことがありました。最初は「シャカシャカして色も派手で、この布団皮のような着物はなんだ?!」と思ったんですけど、着たらすごく可愛くて。アンティーク着物が好きになったのは、その銘仙との出会いからです。

富田里枝: 周りにも着物好きのお友だちがいたのですか?

さと: いえ、最初はひとりで古着屋さん巡りしてました。埼玉に住んでいたので川越の喜多院とか浦和のつきのみや神社の骨董市で探したり。そのうちアメブロを始めて着物のことを書いていたら、徐々に着物仲間が増えていきました。

富田里枝: 旦那さまも着物似合いますね。よくいっしょに着物でうちにも来てくれますよね。

さと: 着物がきっかけで知り合ったんですよ。着物以外はまったく趣味が違っていて、彼はスポーツ好きのアウトドア派、私はインドア派。

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富田里枝: さとさんの仕事としては、着物の着付けを教えたりしているのですか?

さと: はい。オンラインレッスンと、不定期で着付けや半衿付けのワークショップを開いています。毎回ツィッターで告知して、4~5人くらいの少人数でこじんまりと。
以前はハンドメイドの作家さんを集めて販売イベントなどを開催していたのですが、教える側にならなければと思って。というのは、販売だけでは現段階で着物好きな人にしか届かないし、裾野が広がらないから。それでは着物はますます衰退してしまいます。

富田里枝: 呉服業界の人でもないのに、使命感が強い!

さと: 逆に業界の中にいたら気づかないかもしれません。たとえば呉服屋さんって顧客リストの上から順番に電話するような営業をやっている店が、今でも多いと思うんです。これだけインターネットが発達しているのに昔と同じことやっちゃう。

富田里枝: その話、「note」で書いてましたね!

さと: 私自身もそういう営業をされて、嫌だなーと思ったことが何度かありました。それで、皆さんがもっと安心して着物のことを教えてもらえる環境をつくりたいと考えています。

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富田里枝: 呉服屋さんがみんな嫌な売り方をしている訳ではなくて、誠実に面倒をみてくれるお店もたくさんありますよね。初心者のかたには、まず信頼できるお店をみつけるのが大事だと私もアドバイスしています。
さとさんが発信しているツールは、ツィッター(twitter)がメインですか?

さと: 発信頻度はツィッターがいちばん高いですね。インスタグラム(instagram)のほうがフォロワー数は多いです。でもインスタは画像だけなので、思想的なことは伝わらない、それでnoteも始めました。ライターの仕事をしようと考えたこともあったのですが、ギャラがあまりにも安いから、noteで自分の記事を販売したほうがいい。好きなこと書きたいし。

富田里枝: そういう仕組みなんですね。

さと: SNSでフォロワー数が多くなると、インフルエンサーの仕事のオファーがくるようになるのですが、私は自分で本当に良いと思ったものしか良いと言いたくない。褒めるばかりでデメリットを言わないのもダメだと思うんです。

富田里枝: なるほど。さとさんが、それだけフォロワーを持っているというのは、SNS向きだからでしょうか。

さと: 伝統産業の人達と付き合いがないからかも。

富田里枝: というのは?

さと: すでに着物好きな人達に対して発信しても、広がらない。着物を知らない人達に認知を深めなければならないのに、伝統産業や呉服業界の人達ってわかってない。

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富田里枝: さとさん、前職は何をされていたのですか?

さと: カメラの部品関係を扱う商社の事務でした。

富田里枝: インターネットでの発信が得意なのは、IT系というわけではないのね。センスの問題かな。ツィッターは何かのきっかけでバズったり炎上したり、中には悪意もあったりしますが。

さと: システムの構造上、ツィッターはオタクっぽい人が集まりやすいです。

富田里枝: 最近は動画の影響力が大きいみたいだけど、Youtube(ユーチューブ)は?

さと: 現状ではどちらかというとテレビのバラエティ番組っぽい、わかりやすい方にシフトしているかな。

富田里枝: インスタグラムはきれいな部分だけ切り取って見せるし、フェイスブック(facebook)はごく限られたコミュニティですよね。

さと: フェイスブックは年齢層が高いし、私はあまり使っていないです。インスタグラムは、ライフスタイルを見せないと、なかなかフォロワーは増えないと思いますね。

富田里枝: ライフスタイルを見せる、そこがなかなか難しいのよねー

さと: だから、インフルエンサーに頼るんですよ。

富田里枝: なるほど。

さと: おもしろいのが、インスタってフォロワー数が多い人ほど、すっぴんでスーパーで買い物している写真とかUPしているの。億単位のフォロワー持っているハリウッドセレブとか、キメキメの写真は載せないんですよ。

富田里枝: へぇ~!

さと: インスタグラムは海外の人たちも見ているから、私もがんばって英語で書いていて、外国の人達が少しずつ増えています。

富田里枝: どうやって探してくれるの?

さと: インスタの「おすすめ」からだと思いますが、おすすめに選ばれるのは更新頻度とハッシュタグが大事なんです。

富田里枝: さとさん、中国版のツイッターといわれる中国最大のSNS、ウェイボー(Weibo、微博)を始めたんですよね。なぜ中国のSNSを?

さと: 誰もやってないから、やってみようかなーという気軽な感じです。

富田里枝: 中国語で発信したり、やりとりしているの?

さと: はい、中国語まったくわからないのですが、今は翻訳ソフトがあるからそれほど困ることはないです。文字でのやり取りはリアルでの会話と違って、考える時間が取れるので。それに、私が着物なので親日の人しか寄ってこないです。

富田里枝: そうはいっても、中国にも着物に興味のある人がいるだろうなって予測して始めたわけですよね?

さと: 中国人の友人がひとりいて、現地のようすを聞いてみたら「周りには日本人を好きな人わりと多いよ」って教えてくれて。それでウェイボーを覗いてみたら、みんなやたらフォロワー数が多い。私生活の自撮りをUPしているだけの、正直言ってなんてことない投稿でも、2000人のフォロワーを持ってたりとか。

富田里枝: えーなんでだろう。

さと: 人口が多いからです。

富田里枝: なるほど!

さと: 私、ウェイボーのフォロワー1万9千人います。

富田里枝: すごいですねぇ!!

さと: 中国本土の人たちはグーグル(Google)のサービスは使えないし、ツィッターやフェイスブックが見られないんです。その代わりウェイボーやビリビリ(bilibili)というニコニコ動画みたいな動画サイトを見ているのですが、独自文化が発展しててすごく面白い。
ツィッターは一つの投稿に画像4枚が限度ですが、ウェイボーは9枚なんです。中国っぽいでしょ!

富田里枝: あれだけの人口で経済力があって、情報ツールが他国と異なるというのは、やっぱり誤解が生じますよねぇ。

さと: 彼らはVPNという海外契約のwifiを使ってツィッターとかインスタを見ていて、転載しまくるんですよ。でもちゃんとIDは全部記載しているし、著作権とか人権とか侵害しているわけではないです。
逆に、中国ってオリジナリティへの敬意はすごく高いと感じました。

富田里枝: 意外だわー!

さと: 私、先生と呼ばれてますよ(笑)

富田里枝: 着物の世界って世界的にはかなり特殊だと思うのです。マーケットはほぼ日本限定で、その中で一枚何十万も何百万もする着物が売り買いされている。外国の人から見て、着物のどこに魅力を感じているのかしら。

さと: 中国の歴史でいえば、皇帝が代わると前の時代のものはすべて破壊してきたわけです。ウェイボーのフォロワーさんに実際に言われて印象的だったのは「中国は歴史があるけど伝統がない」って。

富田里枝: 日本の着物に該当するような民族服はなくなってしまったのですね。

さと: チャイナドレスを想像する人は多いと思いますが、実はチャイナドレスって中国最後の統一王朝、清を建国した満州民族の衣装に洋風テイストがミックスされているもの。チャイナドレスの生産地が英国統治だった香港へ移った際に、立体裁断になってあのようなセクシーな形になったのです。

富田里枝: 中国には元々、多種多様の民族が存在していますよね。ということは独自の文化もたくさんあるわけでしょう。食は広東料理とか四川料理とか私たちでも知っていますけど、服装は残っていないのかな。

さと: 中国は壮絶な戦争・革命を繰り返すうちに、文化・風習を「封建時代の因習」として捨て去りました。民族衣装に関して、生産方法も伝わっていないし、着こなし等についても受け継がれていないというのが実情のようです。

富田里枝: 文化大革命もありましたからねぇ。

さと: ウェイボーをやっていて、私自身試されているのかなって感じることがあります。

富田里枝: というのは?

さと:日本人は単一民族で島国の中で、どうやって着物を引き継いできたんだろうって。

富田里枝: あっ!そこに興味が…

さと: あるみたいです。日本も第二次世界大戦で日常生活から着物が切り離されてしまいましたけれど。

富田里枝: 日常的に着物姿の日本人がたくさんいて、さとちゃんみたいな人が普通だとは彼らも思ってないわけね?

さと: それは思ってないです。私のことはヘンな日本人だと思っているはず(笑)。
フォロワーのある女の子に「日本の女の子はお洒落ができて羨ましい」というコメントを貰ったことがあります。その子はロリータファッションが好きなんだけど、家の中でこっそり着ているというのです。「通行人の目が気になる」というコメントも少なくないです。

富田里枝: なぜかしら。

さと: 私個人の意見ですが、日本は比較的、持ち物で「どんな人間か」をジャッジされにくいのだと思います。中国は漢民族を含めて56の民族で成り立っています。だから、単一民族、そして島国である日本とは、他人を見る目の大前提が全く違います。

富田里枝: なるほどねぇ。

さと: 中国で一番人口の多い漢民族の民族衣装は「漢服」です。私がウェイボーで着物の投稿をしていると、触発されたのか漢服を復活させる話が盛り上がってきました。聞いてみると、中国では民族衣装を人生の節目等に着る風習があまりないようです。

富田里枝: 数十年前までは人民服でしたものね。

さと: 人とは違うファッションをしていると、向こうでは知らない人からどつかれたり、時には身に危険がおよぶこともあるらしいのですが、若者の中にはそういう風潮を変えていきたいと思っている人達がいるのです。

富田里枝: そうなんですか。

さと: 自分たちの漢服は完全になくなってしまったけれど、日本人にとって着物が歴史からまったく消えることはなかった。そこに非常に興味を持っているみたい。

富田里枝: たしかに歴史の中でマイナーチェンジしているけど、着物そのものは続いていますね。

さと: 漢服は博物館にしか残っていないので、技法から復活させようと頑張っているんです。彼らとコミュニケーションしていると、日本人は民族意識が低いなって感じます。中国の人たちは単一民族ではないから、逆に民族意識が高い。だからこそ、着物に対してリスペクトの気持ちを持ってくれているようです。

富田里枝: さとさんのインスタで見ましたけど、中国人の女の子と、漢服と着物を交換して着てましたよね。二人とも可愛かった!

さと: お互い楽しかったですよ!

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富田里枝: そもそも呉服の呉って中国のことですもんね。

さと: そうです。ウェイボーやインスタグラムで海外の人達と交流していると、民族ってなんだろうって考えてしまいます。

富田里枝: さとちゃんにとって着物ってなんでしょうか?

さと: 好きな服。それ以上でも以下でもないです。好きだから着てるし、衰退してほしくないし、もっと多くの人に知ってほしい。

富田里枝: 着物の世界では今、作り手の高齢化が問題になっています。でも履物の業界は、着物より危機的状況なんです。うちのように鼻緒挿げの職人を置く専門店が次々と廃業しているし、下駄や草履の台、鼻緒をつくる職人もどんどんいなくなっています。時代の流れや私たち自身の努力不足も否めませんが、私は呉服業界の責任もあるのではないかと思います。すべての呉服店とはいいませんが、草履を着物の付属品、オマケのように扱うお店も少なくないですから。

さと: 履物、大事ですよ!いい履物を履いていると、全部が良く見えるから。私も昔は2千円くらいの下駄とかナイロンの鼻緒が付いてる安い草履でいいやって思っていたんです。でもちゃんとした下駄を履いたら着物姿がずっと素敵に見えるって気づいて、それから日傘やバッグもちょっと良いものを買おうと思うようになりました。

富田里枝: そう言っていただけると嬉しいです。和装文化とは別に、今後私は和装履物文化を広めたいんです。日本だけではなく世界に向けて発信したいなと考えています。

さと: 中国、一緒に行きましょうよ! 実はもうすぐ上海で販売会を予定しているんです。向こうの皆さんは何に興味があるかわからないので、いろいろ持って行くつもり。

富田里枝: えーっ!すごいなぁ。現地からの報告、楽しみにしてますね! 今日はおもしろいお話しを聞かせてくださって、ありがとうございました。

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浅草では外国人観光客がレンタル着物を着て撮影している情景があちこちで見られます。
賛否両論ありますが、外国の人が着物をいいな、と思ってくれるのは悪いことではないと思います。

今回、さとさんのお話で、民族衣装への興味関心は、その国の文化や歴史へのリスペクトにつながると感じました。
世界中で、さまざまな民族衣装が日常的なファッションとして見直されるようになったら、どんなに楽しいだろうと想像します。

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