痛いのは「鼻緒が細いから」ではありません

昨日、お母様が履いていたという草履を2足持ち込まれたお客さまがいらっしゃいました。
「痛いから太い鼻緒に替えてください」というご希望でした。

こちらのような牛革メッシュの草履、当店も以前は扱っていましたが、革をこのように加工する技術を持つ職人・メーカーがいなくなり、仕入れることができなくなりました。

昭和の時代に凄い技術で作られた草履

昭和の時代は、牛革メッシュの他にも、特殊な革染め加工、螺鈿や鼈甲をあしらうなど、凄い技術を駆使した凝ったデザインの草履もいろいろ作っていました。
草履の工房も職人さんもどんどん減ってゆき、今はできなくなった技術も枚挙にいとまがありません。

鼻緒を替えたら、せっかくのデザインが…

今回持ち込まれたメッシュの草履は台と同じ素材・色で鼻緒を仕立てており、台の天(足を乗せる部分)は縁をリング状に仕立てて、よりほっそり見えるデザインとなっています。
底裏を見るとかなり履きこんでいますが、きれいにお手入れされていて、持ち主はお洒落な方だったのだなーと感じました。

この台に別素材の太い鼻緒を合わせたら、デザインが台無しになります。
今はもう残っていない技術で作った貴重な草履、鼻緒を替えたらもったいない!
お客さまにもそうご説明し、鼻緒を替えずに足に合わせて調整するだけにしました。
そもそも、そのお客さまにはサイズが小さめなので、踵が3センチ位出てしまうのですが、鼻緒を調整してちゃんと履けるようになりました。

昔は草履や下駄の履き方が今とは違った

日本人がもっと和服を着ていた時代、履き方も今とは違っていました。
鼻緒の挿げ方はきつめで、足指を鼻緒にちょっと引っかけるくらいで履いていたんです。
現代人はそのような履き方はできないので、もっと足指を入れて履けるように当店の職人は鼻緒を調整するし、草履のサイズ選びも楽に歩けるようにアドバイスしています。

今回のように、痛くて履けない草履を持ち込まれるケースは非常に多いのですが、ほとんどの方が「鼻緒が細いから痛い」と思い込んでいます。
「今よくあるような柔らかくて太い鼻緒に替えてください」とおっしゃいます。

痛いのは、鼻緒が足に合っていないから

草履が痛いのは、鼻緒の細さ、あるいは革で固いから、という理由ではありません。
柔らかくて太い鼻緒でも、足に合っていなければ痛くなります。

また、鼻緒がきついから痛くなるとも限りません。
逆に緩過ぎることで、足指の股に鼻緒の前坪が食い込み、痛くなってしまうケースも多々あります。
いちばん大切なのは、鼻緒の挿げ方。足に合っていれば痛くなく快適に履くことができます。
これは草履だけでなく下駄も同じことです。

全国から履物屋さんがどんどん消え、多くの方が呉服屋さんや催事で草履を購入するようになりましたが、呉服屋さんや着付けの先生は、履物のプロではありません。
また草履を製造しているメーカーも、鼻緒の挿げに関してはプロではありません。
メーカーにいる職人と、当店のような小売専門店の職人は、鼻緒の挿げ方が違うのです。

少人数にじっくり伝える「履物laboはきものがかり」

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そんな訳で、少しでも正しい知識を伝えたいと始めたのが「履物laboはきものがかり」です。
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