和装人インタビュー

第51回 着物スタイリスト    大久保 信子 さん

着物好きにとって、大久保先生は憧れの存在。品があってきりっとした着姿にはいつもため息が出ます。この春に出版された『着物でおでかけ安心帖』(池田書店)に、辻屋の履物を紹介していただいたご縁で、何度も浅草の店に足を運んでくださったのですが、気さくな人柄と、さっぱりした江戸っ子らしい気性に、ますますファンになってしまったのでした。

四代目 富田里枝

 

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大久保 信子(おおくぼ のぶこ)

着物スタイリスト、江戸着物研究家。東京・日本橋に三代続いた木綿問屋に生まれる。お茶の水女子大学附属高等学校、学習院女子短期大学(現・学習院女子大学)英米文学科卒。着付け講師を経て、着物スタイリストに。雑誌をはじめ、舞台やテレビの衣装担当もこなし、多くの女優や歌手から支持されている。歌舞伎などの伝統文化にも精通し、江戸文化研究家としても知られる。『伝統を知り、今様に着る 着物の事典』(池田書店)、『大人の素敵なお出かけ着物』(世界文化社)監修、『徹子の部屋』(テレビ朝日)出演、『にっぽんの芸能』(NHK)出演中。

 

 

基礎、原点は時代衣裳からずいぶん学びました。

 

四代目 富田里枝: 大久保先生は日本橋ご出身なんですね。

大久保信子: はい。実家は代々、お店が日本橋にあり、婚家も日本橋のお店なので本籍も変らず日本橋なんです。実家は自宅が小石川だったんですが、家にはしょっちゅう八丁堀の誰それさん、堀留の誰それさんと、毎日のように仕事関係の人から電話がかかってきました。

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四代目 富田里枝: どんなご商売を?

大久保信子: 繊維関係の問屋です。

四代目 富田里枝: 今のお仕事はお育ちになった環境から?

大久保信子: いえ、この仕事に就くなんて思ってもいませんでした。

四代目 富田里枝: そうなんですか。 はじめたきっかけはどんなことで?

大久保信子 子どもが小学校にあがったくらいの頃、そろそろ何かしようかなって。無芸大食じゃあね。

四代目 富田里枝: そんな(笑)。でも専業主婦でいてもいいのに、どうしてでしょう?

大久保信子 なぜかしらね。でも、子どもが大学に入るまでは、できる範囲で仕事がしたいと思ったんです。

四代目 富田里枝: 最初から着物のお仕事だったんですか?

大久保信子 日舞を習っていたので、着物を着るということに対しては全然抵抗なかったの。

四代目 富田里枝: では、着物が詳しい人だからっていうことで、お仕事がきたのですか?

大久保信子 そういうわけでもないんです。嫁いだ先もうちと同業で、繊維の総合問屋だったの。呉服もあって、夏はアッパッパとか…簡単な木綿のワンピース、昔あったのよ、知ってるかしら。

四代目 富田里枝: あ、うちの祖母が着ていました!

大久保信子 そうそう、それ。布団とかね、いろんな商品を扱っていたんです。それで、最初に雑誌社から着物の本を作るから手伝ってほしいって頼まれたときに、いろんなものを集めるんだったら、私にできるかなーと思って。主人の友人には呉服関係の方々が大勢いるから、あまり苦労しないでね。

四代目 富田里枝: まさにスタイリストのお仕事を自然に始めてしまったわけですね!先生は「日本ではじめての着物スタイリスト」とどこかに書いてありました。
大久保信子 それはね、雑誌社の人が「今、アメリカでスタイリストという職種がある。あなたは着物専門だから、肩書きは着物スタイリストがいいんじゃない?」っていうことで。

四代目 富田里枝: そうだったんですか!今はスタイリストだけじゃなくて着付けのお仕事もたくさんされてますよね。

大久保信子 あるとき資格をとらなきゃって思い立って、近所にある織田学園という着物の専門学校に通ったの。それまでは、ただ自分で着ていただけだから。どういう方法で着物の着方を教えるのか勉強したかったんです。

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四代目 富田里枝: あーなるほど。自分で着ることができても、人に教えるのは違いますものね。

大久保信子 1~2年位通ったら、学校の方から先生にならないかって聞かれて、午前中だけとか3時位までの授業だったら家庭に支障がないかなと考えて、やることにしたんです。そこでカリキュラムの作り方を習得したのね。こうやって教えれば生徒はこのくらい理解する、というふうに、実践で学びました。

四代目 富田里枝: そのカリキュラムは独自に作られたのですか?

大久保信子 そうです。今も使っています。たとえば、1年目はお太鼓を結べるようにというテーマがあったら、その過程はどういう進め方で教えてもいいことになっていたから、それはやりがいがありました。

四代目 富田里枝: 着付けも教わり方で、だいぶ違いますものね。

大久保信子 その後、歌舞伎の衣裳の着付けを習いたくなって。たまたま知り合いに時代衣裳を教えるところがあるというので、頼み込んで習いに行ったんです。10年以上通いました。

四代目 富田里枝: すごーい!

大久保信子 役柄に合わせた衣裳や着方、着物の図柄などを、徹底的に教わりました。粋な役だったら縞を選ぶ、というふうにね。同じ町人の役でも、娘の役、年増の役、着物も着方もそれぞれ違うでしょ。私が今もっている基礎、原点は時代衣裳からずいぶん学びました。

四代目 富田里枝: 原点、ですか?

大久保信子 たとえばお姫様の着方や柄の選び方は、振袖のお嬢さんに参考になります。時代衣装でそういうことを覚えたのはとっても役立ちましたね。 それから、時代衣裳の早変わりのテクニックは、のちにファッションショーの仕事で役立ちましたよ。

四代目 富田里枝: 先生は、雑誌、CM、舞台、映画など、モデルさんや女優さんにもたくさん着付けをされてますよね。

大久保信子 あの人たちは、それはそれはすごいプロ意識です。 たとえば舞台で、毎回同じシーンで同じ着物を着るときに、帯の柄が前日と1センチでもずれたらいけない。役者さんは自分を最高に見せることにはそれくらい真剣なんですね。

四代目 富田里枝: なるほど。プロの方には、写真撮影とか演技など、いろんな目的で着付けをするわけですが、ふつうの人たちは、お出掛けのときに、おしゃれしよう!と思って、着物を着ますよね。女優さんほどではないけれど、やはり自分をきれいに見せたい、素敵に見られたい気持ちがあります。きれいに見える着こなしのポイントってありますか?

大久保信子 着物って帯に注目するわよね。ですから後ろ姿が気になる。やはり姿勢が大事ですね。 背筋がまっすぐだと後ろ姿もきれいに見えます。でも今の若い人たち、ヒョコタンヒョコタン、なんだかおかしな歩き方の人を見かけますよね。足に合った草履を履いてないからかしら。

四代目 富田里枝: お店でお客様によく聞かれるのが、草履から小指が外にはみ出るから、もっと大きなサイズはないのですか?と。鼻緒が真ん中についているから、小指が出ない人はいないんですって説明すると、あーそうなんですかって。

大久保信子 まぁー! びっくりねぇ。

四代目 富田里枝: 着物を着るのは成人式の振袖が初めて、もしくは七五三以来っていう人が多いですから。中学、高校くらいでもっと着物に親しむ機会が増やせないものでしょうか。やっぱり和の習い事なのかなぁ。先生は、何歳頃から踊りを習ったのですか?

大久保信子 中学1年です。バレエを習いたいと言ったら親が、お尻丸出しで踊るのはちょっとマズい、日本舞踊ならいいって。

四代目 富田里枝: アハハハ!

 

 

今は核家族になって‘なんとなくの着物知識’がなくなっちゃったんです。

 

大久保信子 ずいぶんのめり込んでいましたよ。踊りのお稽古があったから、学校の運動部は入れなかったくらい。結婚してやめたんだけれど、また習いたくなって、たまたま10年位前に昔習っていた先生と同じ系統の教室を見つけて、今も続けています。

四代目 富田里枝: 歌舞伎がお好きなのも日舞の影響ですか?

大久保信子 そうですね。歌舞伎が好きな友達がいて、みんなで学校の帰りに歌舞伎座に行きましたね。おこづかいもそれほどないから3階席で。あの頃は今ほどいろんな楽しみがなかったから。

四代目 富田里枝: ご贔屓はどなたでした?

大久保信子 先々代の團十郎。今の海老蔵のおじいさんよね。

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四代目 富田里枝: 浅草で平成中村座がかかっていた関係で、私のまわりは中村屋のファンが多いです。

大久保信子 あ、そうですか。私も新春歌舞伎は何度も浅草へ観に行きましたよ。

四代目 富田里枝: ここ歌舞伎座も新しくなって、若い人達が歌舞伎とか日舞にもっと興味を持ってくれるようになるといいですね。先生、今日はNHKのEテレ「にっぽんの芸能」の収録だったのですよね?

大久保信子 はい。私は番組のなかで「着物ことはじめ」というコーナーを、木村孝さんと交互で担当しています。今回の収録は、着物のQ&Aというテーマでした。

四代目 富田里枝: 季節に合わせて南野陽子さんの着物を選んでいらっしゃいますね。先日は「おでかけ浴衣」に辻屋の下駄を合わせてくださいました!

大久保信子 辻屋さんは、ほんとうに下駄の種類をたくさん揃えておられますね。今はお忙しいでしょう?

四代目 富田里枝: はい。お陰さまで花火の時期は1年でいちばんの繁忙期です。花火大会は浴衣というイメージが定着しましたし、履物専門店で気に入った下駄をあつらえるということも、だんだん浸透してきました。 でも逆に、下駄は浴衣のときだけって思っている人が多いんです。着物に下駄を履くんですか!?とびっくりされることもよくあります。

大久保信子: あら、そうなの!? 下駄はラクよね。格子の紬なんかには下駄が似合いますよね。雨が降ってきても心配ないし。

四代目 富田里枝: 今年出版された「着物でおでかけ安心帖」(池田書店)には、うちの下駄や草履も載せていただいて、ほんとうにありがとうございます。お店にも置かせていただいていますが、着物を着始めたばかりという方が買っていかれます。盛りだくさんな内容ですが、TPOに合わせた着物のコーディネイトについても大変参考になります。

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大久保信子 それは嬉しいです。昔は何世代も同じ家で暮らしていたでしょう。たとえば、おばあちゃんがおしゃれをしてお芝居を観に行くとき、その着物姿をお母さんや娘さん達は見ていました。今日は法事があるといえば、ふさわしい着物はどうなのか、見て覚えました。でも今は核家族になって‘なんとなくの着物知識’がなくなっちゃったんです。

四代目 富田里枝: 家庭内だけじゃありませんよね。私が子供の頃は着物を着ている人が、町にたくさんいました。特別なお出掛け着としてでなくて、日常の衣服として。浅草という土地柄もあるのかもしれませんが。でも下の世代は、そういう着物姿を見る機会なく育ったわけですから。

大久保信子 そのとおりです。

四代目 富田里枝: それからこの本で私が好きなのは、コラム「信子さんのこぼれ話」。読み物としてもおもしろいです。「着物は季節感が大事」とか。

大久保信子 洋服にも季節感はあるけれど、着物の方が顕著よね。自分が季節と同化するというのが着物のおしゃれの一つですね。

四代目 富田里枝: 楽しみでもあるけれども、難しいところでもあります。

大久保信子 そうですね。同じ着物と帯でも、帯締めと帯揚げを季節に合う色に替えるだけでもいいんですよ。それから自分だけがわかって楽しむこともあります。歌舞伎を観に行くときに、演目や役者の紋にちなんだ柄を、襦袢や帯揚げに入れるとかね。江戸っ子はね、それを一々、人に言わない。言わないでも気づいてくれたらいいのよ。

四代目 富田里枝: そこまでできるようになると楽しいなぁ。
最後に、着物選びのアドバイスなどあれば教えていただけますか?年齢や体型、着て行く場所など人それぞれなので、難しいと思いますが。

大久保信子 そうねぇ。自分年齢にふさわしい、似合う小紋を1枚、お持ちすることをおすすめします。紬もいいんだけど、小紋だったら帯次第で、いろんなTPOに対応できます。江戸小紋ではなく、ふつうの小紋ね。

四代目 富田里枝: 私、40代後半ですが、洋服だと何を着ていいか困るんです。ちょっと気の張る場所や集まりに出かけるときに、この年齢だとあまり適当な洋服は着ていけない。着物だったらきちんとして見えるし、わざわざ着てきてくれたのねって思ってもらえます(笑)。

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大久保信子 たしかにそうね。流行も洋服ほど気にしなくていいし。

四代目 富田里枝: さっき先生もおっしゃったように、‘なんとなくの着物知識’がない人たちにとって、洋服の感覚だと着物のコーディネイトはハードルが高いのだと思います。

大久保信子 難しく考えることはないんです。ただし儀式だけは、ルールを守って着てほしいです。結婚式、卒入学式、お葬式。ここだけは伝統を守れば、他は楽しく着ればいいんです。
それから、コーディネイトには履物も重要だと言っておきたいですね。どんなに豪華な着物や帯でも、どうでもいい草履を履いてちゃ、がっかりします。

四代目 富田里枝: ありがとうございます!わからなくなったら、先生の本を読んでいただければ(笑)。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

 

2013年7月22日 東銀座にて

 

歌舞伎が大好きという大久保先生が指定された場所は、やっぱり銀座の歌舞伎座前。
この日は爽やかな浅葱色に千鳥柄の着物と、博多の紗献上という、色白のお肌がより引き立つような、さすがな着こなし。
着物女子の皆さん、目標は高く、大久保先生を目指しましょうね!

四代目 富田里枝

 

 

 

 

 

 



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