第58回 上杉惠理子さん
上杉恵理子さんは、和装イメージコンサルタントとして「日本女性の最強の勝負服としてきものを戦略的に着こなす!」をテーマに、和装女性育成塾「ジャパネスク・レボリューション」を主宰されています。
メールマガジンを購読すると「きものを着てみたいけれど躊躇している人たち」について、気づかされることが多々あり、上杉さんの発信していることは、これまでになかった新しいきものビジネスモデルなのでは…と非常に興味深く思っています。
上杉恵理子(うえすぎえりこ)
ジャパネスク・レボリューション主宰。東京都八王子市出身。英語の教師の父と和裁士の母の間の3人きょうだいの長女。きものは特別なものという思い込みを外し、きものを着る場所を増やして、お仕事や人生の成功につながるきものの活かし方を提案している。
きもの以外ではダンスが好きで、ジャズダンスをはじめクラシックバレエ、モダンダンス、ベリーダンスなどを経験。またヨガのインストラクター資格も持つ。
ジャパネスク・ビューティークリエイター上杉恵理子ブログ
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四代目 富田里枝:きものの教室というと、たいてい着付け教室だと思いますが、恵理子さんのセミナーは違うのでしょうか?
上杉惠理子:着付けも教えますが座学もあって、お手入れやコーディネート、「格」などのお話をします。先日はタイプ別診断ということで、カラー診断と骨格診断、顔の印象分析など洋服のイメージコンサルタントが使う手法を和装に転用して、好印象になるアドバイスをしました。
四代目 富田里枝:なるほど。始めたのはいつ頃でしたっけ?
上杉惠理子:今年の3月です。4ヶ月ごとのカリキュラムなので7月9日でちょうど一周目でした。
四代目 富田里枝:受講者はどんな人が対象ですか?
上杉惠理子:仕事を頑張っていたり、ライフワークを持つ女性。自分の衣装の一つとしてきものを選択肢に入れていただくことが目標です。
四代目 富田里枝:私の周りでもきものが好きで、もっと多くの人に着てもらいたいという想いでお教室をされている方を何人か知っています。呉服屋さんとかリサイクルきもの屋さんが教室を持っている例も多々あります。でも恵理子さんのやっているようなことをビジネスにしている人には会ったことがないです。
上杉惠理子:きものを着たいけど着れずにいる人の背中を押してあげたいという気持ちから始めたんです。とにかく一歩目が大変だから。
四代目 富田里枝:「これがビジネスになる」と確信した理由はなんでしょう?
上杉惠理子:会社員だった頃から独立したいという気持ちがあったんですが、何をやったらよいのか模索していました。ある時「大好きなきものはどうかな」と。最初に思いついたのは「虫干しサービス」で、タンスに眠っている着物を出してあげること。虫干ししたり選り分けたり、片付けコンサルタントのような。ところが「これは誰もお金を払わないだろう」と気づいてしまったのです。
四代目 富田里枝:というのは?
上杉惠理子:きものをたくさん持っている世代にアプローチするのも難しいし、私たち世代に聞くと「虫干しってやらなきゃいけないの?」という感覚。やっぱりきものを仕事にするのは無理かなぁと諦めかけたところ、私が学んでいる起業塾の先生に「あなたは誰よりもきものを戦略的に着ている」と言われて「はっ!」と気づいたのです。
四代目 富田里枝:そこから「日本女性の最強の勝負服」「きものを戦略的に着こなす」という方向性が決まったのですね。
上杉惠理子:はい、それで「きもののイメージコンサルタント」として独立しようと決心したわけです。
四代目 富田里枝:なるほど。独立する前はどのようなお仕事だったのですか?
上杉惠理子:最初に就職したのは環境ビジネスの関係で、下水道などの排水処理施設の維持管理をする会社でした。動くお金も作るモノも大きくて、ちょっと合わないなぁと感じて、そこから転職して「星野リゾート」に入りました。
四代目 富田里枝:そこはやりがいがありました?
上杉惠理子:はい、仕事ってこうなんだ!ってようやく感じました。今も週3日、会社で働きながらの起業なんです。
四代目 富田里枝:それはいいですね。うちもそうですけど、呉服屋さんにしても、着付け教室にしても、当然ながらきものに興味がある、きもの好きなお客さまとしか接しないわけです。ですからきものとまったく関係なく日々生活している人達と接することで、バランスがとれるんじゃないかな。
上杉恵理子:そのとおりです。
四代目 富田里枝:日々和装の人々と接していると、日本人のほとんどがきもののことなんか気にしてない、という事実に気づかなくなっちゃうんです。
上杉惠理子:私、洋服あまり得意じゃないんですよ。毎朝選ぶのも面倒だし。でも、きものは楽しい。だったら洋服で自信が持てない人を、着物で輝かせることができるんじゃないかって。
四代目 富田里枝:でも、洋服のコンサルならば、ビジネスに役立つとか婚活に役立つっていう理由づけがあるかもしれないけど、きものは圧倒的に着る機会が少ないでしょう?それに対してお金を出す人がいるかしらって不安はなかった?
上杉惠理子:今すでに、きものに興味がある人はターゲットにならないだろうと。人生でいつかきものを着れたらいいなって思ってる人をどう動かすかが、私の仕事になるはずだと考えたのです。
四代目 富田里枝:それって、たぶん呉服業界の人達がみんなやりたくて、なかなかできないことだと思う。でも確信があったわけですね?
上杉惠理子:はい。私、きものを着ているとみんなに言われたんです。「いつか私も着てみたい」って。絶対ニーズはある。でも何かが足りない。それが何かといえば、一つは情報が偏っているんだろうなーと。
四代目 富田里枝:たしかにそうですね。
上杉惠理子:きものってラクなんだよ!だってハイヒール履くの大変じゃない?って言うと、そうそう!って共感される。
四代目 富田里枝:きものの本も山ほど出てるけど、どれもターゲットがもうすでに着ている人たちなんでしょうね。恵理子さんがメルマガで発信しているのは、きものに関する知識だけじゃなくて、「きものを着たらあなたはどうなるか」という部分なんですね。
上杉惠理子:そうなんです。
四代目 富田里枝:成功体験というのも効果的ですね。きものを着たら、こんないいことがあった!という。
上杉惠理子:だんだん生徒さんたちからの経験談も増えてきました。たとえば「ダンナさまに甘えられるようになった」とか。
四代目 富田里枝:え?どういうこと?
上杉惠理子:「きものだから車で送ってよ」って言ってみたんですって。そうしたらダンナさまもまんざらじゃなくて、最寄駅までとお願いしたのが、目的地の近くまで送ってくれたとか。
四代目 富田里枝:へぇ~!私、恵理子さんのメルマガですごく印象的なのがあって…。「あなたのきもの姿が、ダンナ様の格をあげる」って書いてあったでしょ。
上杉惠理子:最近、ダンナさまが海外駐在でなくても、妻として、きものを着れると良いと考える女性が増えています。理由は日本に来る海外のビジネスマンが増え、日本で、海外からのお客様をもてなす機会が増えているから。
お互いのパートナーを連れあって食事をすることもあり、日本側のビジネスマンのパートナーがきものを着て行くとお相手とのお食事も盛り上がるのだそうです。
四代目 富田里枝:なるほどねー。
上杉惠理子:ちょっといいお店に食事に行くとき、きものを着て行くと「和服の奥様とご一緒の〇〇〇さん」とダンナ様がお店の方に覚えてもらえます。そうやって顔なじみにになったお店をお仕事関係での食事に使うと…イイコトありそうな気がしませんか!?
四代目 富田里枝:説得力あるー!逆に、きものをかっこ良く着ている男性といっしょにお出掛けしたいという女性もいると思う。いずれにしても、洋服に比べると和装の人は圧倒的に少ないからチャンスだって書いているでしょう? 実は私、反対のこと感じてたのね。私は毎日きものを着ているんですけど、他業種の人達との会議とか勉強会には、あえて洋服に着替えて出掛けていたの。目立つのやだなーって。
上杉惠理子:えーっ、ホントに!?私は最初から全然平気で、むしろココだ!という感じでした。
四代目 富田里枝:それはすごいなって思います。考え直そうかな(笑)。
上杉惠理子:なんできものなの?って必ず聞かれますけどね。里枝さんだったら下駄屋さんだからと言えば相手の人も納得すると思いますけど、私はきものの仕事でもなかったですし、ましてやお茶もお花も日本舞踊も習っていなかったので、理由はなかったわけです。
四代目 富田里枝:皆さん、不思議そうな顔するでしょ?
上杉惠理子:そうですね、でもすぐ覚えてもらえる。出版パーティーとかちょっとした集まりに着て行くと、主催者にもとっても喜ばれたんです。きものだから集合写真の時も前にどうぞって言ってもらえたり。
四代目 富田里枝:きもの関連のイベントって、すでにきものを着る人たちばかりですよね。うちのイベントもそうですけど。
上杉惠理子:私は洋服ばかりいるの中に、きもので行くからこそ価値が上がると思います。
四代目 富田里枝:着付けの学校や教室に通っていた人って、先生の考え方や好みに影響を受けている場合が多い気がします。恵理子さんは「どれが正しいか」ではなく、「あなたの魅力を引き出すためにきものを利用しましょう」というスタンスですよね。
上杉惠理子:はい、主役は自分。きものではない。そこが大事です。
四代目 富田里枝:最近、本棚にあった本を読み返したら、すごく感銘を受けたんです。幸田文の『きもの帖』という随筆集。いろんな女性たちのきもの姿を冷静に観察していて、体型や年齢、その人の個性によって、着かたや生地や色柄の選び方が違うということを、繰り返し書いているのです。今の自分をわかってないと、似合うきものって選べないなと感じました。
上杉惠理子:いちばん大事なのは、自分で選べる人になることだと思います。
四代目 富田里枝:着物も帯も小物も、セットになっているのを買うのではつまらないですよね。
上杉惠理子:そうですよ、自分で発想できなくなってしまう。
四代目 富田里枝:今はなんでもパッケージになっているから、本当は自分は何が似合って、何が欲しいのか、考えるのをやめちゃうのね。
上杉惠理子:ネットオークションでいろいろ買うんだけど、ぜんぜん着ないという方もいらっしゃいました。どれも微妙に違う気がするって。それから実家の箪笥にある古い着物を人に見せるのが恥ずかしいという人も。
四代目 富田里枝:なんだか皆さん、失敗するのが怖いんですね。私なんて今は偉そうに言ってますけど、以前はどんだけ恥ずかしい着方をしてきたか(笑)。母がいた頃はいちいち聞けたんだけど、亡くなってからは自分で判断するしかなかったから。
上杉惠理子:えーたとえばどんな?
四代目 富田里枝:袷の着物に夏用の帯を締めちゃったりとか。本には書いてあるけど、箪笥に入っている帯がどれなんだかって、初心者にはわからない。リサイクル店で買った着物だって、今考えるとなんでこんなの買ったんだ!?ていうのありますよ。失敗しないでうまくなろうなんて虫が良すぎる。
上杉惠理子:おっしゃるとおりです(笑)。
四代目 富田里枝:恵理子さんはお母さまが和裁士だったということで、子どもの頃からよくきものを着ていたのですか?
上杉惠理子:ところが母は、きものを縫っていたけど着ない人だったのです。うちの箪笥にたくさんきものが入っているなんて、全然知らずにおりました。
四代目 富田里枝:着ようと思ったきっかけは?
上杉惠理子:学生時代、途上国の開発に興味があって、海外で仕事をすることも考えていたので、きものを着れた方が得かなーと。それで母に「きもの着てみたいんだけど…」と言ったら、母がすごく喜んで、近所の着付けの先生を探してきてくれたんです。
四代目 富田里枝:娘がきものを着てくれるのが、嬉しかったんですね。自分で着れるようになって、まずどこへ着て行ったんですか?
上杉惠理子:高校時代の恩師がすごく可愛がってくださって、飲みに連れて行っていただくときに、きもので行きました。今思い出すと、フレンチにウールのきもの着て行ったりでちょっと恥ずかしいのですけど、恩師がすごく喜んでくれました。
四代目 富田里枝:それが今の仕事に繋がっているのかもしれませんね。OL時代も着ていたんですか?
上杉惠理子:はい、最初名古屋に赴任になってひとり暮らしを始めたのですが、オフの日にきものを着て本屋さんとかカフェに行ったり。
四代目 富田里枝:きものを着ることが気分転換だったのですね。
四代目 富田里枝:恵理子さんが学んでいる起業塾では、他にどんな起業を目指しているいる方がいるのですか?
上杉惠理子:アロマセラピストとか心理カウンセラー、イメージコンサルタントなどです。
四代目 富田里枝:イメージコンサルタントって人気職業なんですね。知らなかった。
上杉惠理子:私の起業塾の先生はシーズン初めにイメージコンサルタントといっしょに洋服を選んで、髪の色とか化粧品もすべて指定してもらってるそうです。本業がすごく忙しい人は、バッグ一つ選ぶ時間がもったいないんですって。
四代目 富田里枝:へぇ~っ!びっくりです!恵理子さんは和装でそれをされるわけ?
上杉惠理子:うーん、私はどちらかというと新しいものを買うまえに、箪笥のコヤシを活かすことをおススメしてます。そのほうが、きものも喜ぶ、お母さんも喜ぶと思って。
四代目 富田里枝:おもしろいですねー。メルマガを読んで「そうそう!」と膝を打ったのはね、「予算3万円で何を買うか」って。きものや帯は、うちの箪笥にあるものかリサイクル店で買って、まずお金をかけるべきは下着と小物、履物だって書いてあったでしょう。そんなこと言う先生、ほかにいませんよ。
上杉惠理子:でしょうねぇ(笑)。
四代目 富田里枝:予算3万円って現実的だなぁって。きものを売る側も、ただ売らんかなだけでは広がらないし、次の世代にもつながらないと思います。
上杉惠理子:この前、「訪問着風の浴衣」が売ってましたよ!
四代目 富田里枝:浴衣用の羽織とか…最近ありますよね。
上杉惠理子:最低限の知識はあったほうがいいと思います。きものの構造とか素材とか、主な産地くらい知っておいた方が、呉服屋さんに気おくれなく入れます。同時に、これだけの手間と時間をかけているから、このお値段なんだということも伝えたいです。
四代目 富田里枝:逆にあまりに安く売られているものには、それなりの理由があるということです。
上杉惠理子:私の和装塾では、月一回個別コンサルを受けられるんです。たとえば浴衣を買いに行くのに同行するとか、ご自宅に伺って箪笥を開けて、この着物は何で、どういう時に着れるかを説明したり。こっちは小紋で、こっちは訪問着ですよ、これは名古屋帯で、これは袋帯ですよ、とか。
四代目 富田里枝:そこから!?
上杉惠理子:そうですよ(笑)。
四代目 富田里枝:きものには格があるっていうのが、初心者にとってはハードル高いみたいですね。
上杉惠理子:きものを全部並べたら序列ができますと言うと、びっくりされます。だからまずは、これは自分のために着るきもの、それは人のために着るきもの、と大きく分けます。
四代目 富田里枝:あ、それはいいですね!フォーマルかフォーマルでないかってことですよね?きものの格って面倒に感じるけど、わかっていればそれで表現できるから便利なんですよね。
上杉惠理子:そうなんですよ!ほかにも着付けの補習をしてほしいとか、半衿をいっしょに付けるとか。
四代目 富田里枝:なるほど。ちょっと意地悪なこと言っちゃうけど…お料理の先生と共通する部分があるなって思うんですよね。つまり自宅とか、料理教室で教えているプロの人達がいますよね。でもふつうの主婦の中にも、すごく腕のいい料理上手な人はたくさんいて、教えたりせず家族のためだけに毎日お料理を作っている。もしかしたらお料理の先生よりずっと上手かもしれない。きものもそうですよね。恵理子さんよりきものの知識が豊富な人もいれば、すばらしいきものを山ほど持っている人もいるし。
上杉惠理子:そう、おっしゃるとおりなんです。まだまだ勉強中なのは自分でもよくわかってます。ただ、きもの上級者がいて、それで十分なのであれば、世の中にもっときものを着ている人がいるはずですよね。
四代目 富田里枝:そうですね!
上杉惠理子:こんなにきものは素晴らしいのに!日本人だから着るべきだとかじゃなくて、いくつになっても明るい色が着られるし、着たら気持ちいいし。そして着てみたいって言う人はたくさんいる。なのに着ない。きっと私にできることがあるっていう確信があるのです。
四代目 富田里枝:私もそう思います。「ジャパネスク・レボリューション」は始まったばかりですが、今後きもので自分をすてきに演出できる女性がきっと増えていくのでしょうね!楽しみにしています。今日はありがとうございました。
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