娘が生まれたら桐を植えるってホント?!

家紋・紋章として使われてきた桐

「桐」は古くから家紋や紋章の意匠になっています。
天皇家の正紋は菊紋、副紋は桐花紋で、足利家、織田家、豊臣家も桐花紋を使っていました。
明治以降は日本政府の紋章として使われており、首相会見の際、演説台の前面には‘五七の桐’の紋章が付けられています。
日本人にとって大切な木である桐。

(桐の花 相徳HPより)

創業140年の老舗「桐たんす相徳」

今月の辻屋本店のインターネットライブ番組「ニッポンのポン」
第13回目のテーマは「桐たんす」でした。
ゲストは明治13年創業の桐たんす専門店「相徳」四代目の井上雅史さん。
「桐たんす相徳」http://www.aitoku.co.jp/
今回は直接、スタジオの下駄屋barにお越しくださいました。

「桐たんす相徳」(相徳HPより)

井上さんは桐の持つ特性を日本木材学会で発表するほどの研究肌。
桐下駄を扱う私たちも知らないような知識をたくさんお持ちで、とても勉強になりました。

大切なものを保管する桐

相徳さんは宮内省や外務省からの注文で、古文書や条約の現本を保管する桐たんすも作っていたそうです。
着物だけでなく、大切なものは桐箱に入れるという文化は湿気の多い日本ならではなんですね。
東京の冬はカラカラに乾燥し、梅雨時はものすごく湿度が高くなりますが、一年を通して桐たんすの中を測定したところ、ほぼ湿度が変わらなかったそうです。
さらに衝撃の写真を見せてくださいました。
火事にあったお宅のたんす、外側は真っ黒に焦げているのに中の引き出しはまったく焼けていない!
桐たんす恐るべし!!

(「桐たんす相徳」HPより)

高い密閉性は職人の技術力

私が今でも祖母や母が着ていた何十年も昔の着物を着られるのは、桐たんすにしまっていたからなのだなぁと、あらためて納得しました。
桐たんすの威力がすごいのは、桐そのものが湿度を通さず火に強い点はもちろん、寸分の隙間なく仕上げる桐たんす職人の技術力によるものです。
まるで空気鉄砲のように、どこかの引き出しを押し込むと、どこかが飛び出す高い密閉性。
この職人技はなくさず守り続けてもらいたいですね。

桐は植えて育てる木である

辻屋本店で扱っている下駄は基本的に桐下駄です。
私と妹は何年か前に桐の生産地である福島県の喜多方や会津若松まで行き、桐材店の方に直接お話しを伺いました。
その時の写真はこちらにUPしています。

「履物豆知識・桐下駄の価値と見方」https://getaya.jp/knowledge/geta_kirigeta/

今回、井上さんのお話しで、さらに納得したことがあります。
桐は自然に生えているものを伐採するのではなく「植える木、育てる木である」こと。
林産の分類からすると林産特産物なので、シイタケなどと同じ扱いになる。
ヒノキなどの木と比べると農産物に近いということ。

会津桐が最高である理由

国産桐の中では会津桐が最高といわれています。
その理由として、会津の気候風土が桐に向いているという点は確かにありますが、それだけではありません。
江戸時代の初めに桐の植林の奨励策が出され、以降、会津松平藩の政策として続けられてきた長い歴史がある。
つまり、会津地方では良質な桐材を作るためのノウハウを持っていること!

昔は「娘が生まれたら桐の木を植えて、お嫁にいくときに桐たんすを作って嫁入り道具に」という話がありましたが、庭に植えて放っておくだけでは、たんすを作れるような桐は育たない。
余分な枝をはらって節ができないよう、ウサギやネズミにかじられないよう、まっすぐに育てるには、大変な労力と時間が必要なんです。

植えた人が丹精込めて育てる木。

(会津桐と井上さん 「桐たんす相徳」 HPより)
( 桐材と井上さん「桐たんす相徳」 HPより)

そして、長い年月をかけて育てた桐を伐採してから、実際にたんすや下駄などに使うには、まず何年か自然乾燥させる必要があります。
桐材のなかでもいちばん高価な部分は、お琴に使われるそうです。
下駄についても柾目がまっすぐに通った合目の下駄は、何十年ものの桐からごく一部分からしか取れないので、やはり大変稀少価値があります。

外国産の桐との比較についてもお聞きしました。
日本のように植えて育てるという考え方ではなく、自生している木を伐採することもあるようですし、種が異なる桐である場合も少なくないようです。
実際、手で触ると、国産の桐は温もりを感じますが、外国産の桐はひんやりしています。やはり日本で使うには、国産の桐が向いている…とくに素足で履く下駄には、日本の桐だからこそ心地よいのではないでしょうか。

<男物>合目 -柾- 駒下駄 https://getaya.jp/?p=61814
<女物>- 柾 – 千両下駄 「七緒vol.68にて掲載中」 https://getaya.jp/?p=61376

国産桐はSDGsだ!

古くなった桐たんすは削り直すことが可能です。
金具も付け替えれば、見違えるようにきれいに蘇ります。 http://www.aitoku.co.jp/kousei/index.html
桐はまさにSDGsな素材なのです。

現在、私たちの生活は人工的に作られた大量生産品に囲まれています。
環境破壊が進み、脱プラやゴミ問題が叫ばれている中、木を植えて何年もかけて育て、無駄なく使う日本人の暮らし方は、もっと見直されるべきだと思います。

和装履物も今はEVA製やウレタン製など石油製品が席巻していますが、代々、桐下駄を扱ってきた辻屋本店としては、なんとか桐文化を次世代に繋げていきたいものです。

SDGsとは… 国連広報センター https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/

第13回ニッポンのポン「桐たんす」見逃した方はアーカイブで!

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