第46回 和のお作法学校「ジャパンビューティマナー」代表・講師 林 小春 さん
小春先生と知り合ったのは、浅草の日本料理店「茶寮一松」の女将さんから「とてもお話が上手でおもしろいマナーの先生がいる」と紹介されたのがきっかけ。実際に、講座を受けたところ、たしかにハッとすることがたくさんあり、これはもっと多くの人に知っていただきたい!と感じたのです。
たとえば、自分自身を鏡で見たり、写真に映った姿は、正面を向いて制止していますよね(最近は動画もありますが)。 でも他人から見た自分は、当然のことながら動いているわけで、姿勢や動作、佇まいなどすべて総合された印象を与えているはず。メイクや髪型、ファッションがばっちりでも、しぐさや立ち居振る舞いがイマイチで、がっかりされることって、あるんですよね。
自分をより素敵に見せる、ステップアップするためのヒントを教えてくれる林小春さんのお話、ぜひ参考にしてみてください!
下駄屋.jp ウェブマスター 富田里枝
林 小春 (はやしこはる)
大阪出身。日本舞踊・茶道などを通して国内・海外にて日本の伝統文化普及に従事。2000年~2001年、北アメリカ50ヶ所で「紅花グループ」後援ジャパンカルチャー公演を行う、
帰国後。東京・ホテルニューオータニ内日本料理店・紀尾井町十和田にてマネージャーを務め、従業員のホスピタリティ・サービスマナー指導に従事。 2006年お作法学校「ジャパンビューティマナー」設立。浅草と銀座の教室で作法指導・講演会・執筆活動、伝統文化のイベント企画(新春百人一首かるた会開催)、伝統芸能に関わる通訳(せんす能楽薪能公演・神田明神能通訳)など多彩な活躍をしている。
「ジャパンビューティマナー」公式ホームページ http://www.jb-manner.com/
私が目指しているのは、生活の中で役立つ作法なんです。
四代目 富田里枝: 先日「初級なでしこ講座」の「和の所作・立居振舞」を見学させていただいたのですが、小春先生は生徒さんの目線で、一人ひとりの事情に沿って教えていらっしゃるのが印象的でした。
林小春: そう言っていただけて嬉しいです。
四代目 富田里枝: ‘間’が大切とおっしゃったのが、おもしろいと思いました。例えば立つ、座る、襖を開ける、手土産を渡す、そういう一つ一つの動作に‘間’がないと、非常にガサツに見えてしまう。仕事ができる有能な女性って、テキパキした動作が身についているから。
林小春: もちろん日常の仕事の場面では、スピードが大事だと思います。でも接待やパーティーの席などで、仕事をテキパキこなすいつもの自分とは違う一面が出せたら、次のステップに上がれるのではないでしょうか。
四代目 富田里枝: リズムを意識する、ということも、実際に動いてみると納得します。
林小春: 序(じょ)、破(は)、急(きゅう)のことですね? 言葉だけでは理解しづらいですが、リズムを意識するだけで所作がとてもきれいになるのです。
四代目 富田里枝: それから、息を止めちゃダメって何度もおっしゃってましたよね。
林小春: はい。呼吸も大事ですね。お辞儀でも、体を倒すときは吐きながら、起きるときは吸いながら。息を止めてしまうと、体が強張って、相手に与える印象も固くなります。 食べ方や立ち方、座り方など基本の型は、シンプルで、自分が無理していない型が、いちばん美しく見えるのです。
四代目 富田里枝: 立つ、座るという単純な動作が、実はとても難しい。私は茶道を習っていたときに、頭がぶれてはいけません、とずいぶん注意されました。正座した状態から、すっと真上に立って、真下に座るって、意外とできないですよね。
林小春: 私の教室では、初級で立ったり座ったりという単純な所作を学ぶのですが、中級あるいは上級から始めたいという方が多いのです。でもまずは、自分は何ができて、何ができないかを知って欲しいですね。シンプルなことが、いちばん難しいっていうことを、体で感じていただきたいです。
四代目 富田里枝: 私も、お茶を習わなかったら、立ったり座ったりがこんなに難しいということが、わからなかったです。しかも、先生からそれでよし、と言われたことはありませんでした。
林小春: 基本がすべてで、基本が究極なんです。言葉で説明を聞くより、体験するほうが早い。「できないこと」を知って、さらに楽しいと感じてもらえればいいな。
四代目 富田里枝: 手土産の渡し方、座布団のすすめ方、そういうことは、マナーの本に書いてあるけれども、‘間’とか‘呼吸’は、本を読んだだけでは絶対わからない。でも、それがいちばん大事なことだったりしますね。
林小春: 中級に進んだ方々が皆さんそうおっしゃいます。私が目指しているのは、生活の中で役立つ作法なんです。ビジネス、プライベート、和洋かかわらず。私は学校を卒業してすぐサービス業に就いたので、働いている女性が会社でどんな場面で困り、迷うのか知るために、アメリカから帰国して、あらためてOLを経験したんです。
四代目 富田里枝: アメリカにはお仕事で?
林小春: はい。1998年から2001年の同時多発テロが起きるまで、アメリカ国内50数ヶ所で、日本舞踊や茶道などを舞台でパフォーマンスしたり、テレビやラジオ、新聞で紹介したりしていました。
四代目 富田里枝: 海外で日本文化を広めたいという気持ちは、ずっとあったのですか?
初心者のために一段、階段が作れるかな、と。
林小春: 20代の頃、「ステラ・アドラーアカデミー」というロサンゼルスのアクターズスクールに通ったことがあるのですが、スクールの先生たちは、お能や日本舞踊など芸能文化にとても興味を持っていて、いろんなことを質問してくるわけです。それでカルチャーショックを受けて、自分が日本人だってことを改めて感じました。
四代目 富田里枝: その体験で意識が変わりました?
林小春: 本気で仕事にしようと思うようになりました。それまでは当たり前すぎて、正直言って、20歳頃までは和ものってダサいと思ってたんですよね。
四代目 富田里枝: わかる気がします。私も実家が和装のお店で、小さい頃は日舞を習ったし、着物ももちろん身近にあったんだけど、日本的なものって興味なかったです。音楽も洋楽ばっかり聴いてたし、英文科に進学したし、海外に行きたくてしょうがなかった。
林小春: 私も小さい頃から和ものに囲まれて育ちました。母と祖母は茶道やお琴を習っていて、着物をよく着ていました。母のお稽古に付いて行けば、きれいなお姉さん達がいて、お菓子もらえて、遊び場のような感覚でした。家でも夕食の後には、母がお茶をたててくれたり。お正月は父が玄関のお花を生けるんです。
四代目 富田里枝: お父様が!
林小春: 父はカメラマンで、神社仏閣や料亭の写真を撮っているんです。
四代目 富田里枝: そうなんですか。小春先生も和のお稽古事をされてたんですか?
林小春: はい。子どもの頃から茶道や日本舞踊、お三味線のお稽古をしてきましたが、学ぶっていう意識ではなく、楽しむという感じでした。
四代目 富田里枝: 和ものに恵まれた環境で生まれ育って、海外に出てあらためて価値に気付いたんですね。それで教室を始めたきっかけは?
林小春: 始めたのは30歳の頃ですが、そもそも教えようなんて、偉そうなことを思ったわけではありませんでした。自分の知っている和の世界を分かち合って、一緒に楽しみたかったんです。 和の文化を敬遠する人に対して、自分が手を引っ張ってあげることができればいいなと。初心者のために一段、階段が作れるかなと思ったのです。
四代目 富田里枝: 小春先生の教室に来られるのは、どんな方が多いですか?
ビジネスマナーは和のマナーです。
林小春: 統計をとってみたら、年齢的には18~63歳と幅広いのですが、いちばん多いのは29歳の方でした。
四代目 富田里枝: それって、わかる気がする! そろそろ若いからというエクスキューズは通用しなくなる年齢ですよね。
林小春: そのくらいの歳になると、一度や二度は痛い目に合っているんです。うちに来る人は、和の作法には役に立つ何かがあるんじゃないかと、体で感じているのかも。
四代目 富田里枝: 先日お会いした30代後半位の受講者の女性は「会社である程度のポジションになると、接待先などでマナーを知らないと恥をかくから」っておっしゃってましたね。相手方が会長、社長クラスだとなおさらで、部下にも示しがつかないと。
林小春: そうそう。あるいは彼氏ができて、相手のご両親と食事することになった、とか。20代は「知りませーん」でよかったけど。いざという時でも、さらっとこなせる格好いい女性になりたい。だから、みんな必死ですよ。
四代目 富田里枝: なるほどねぇ。小春先生は、企業向けの講演もなさってますが、具体的にはどんな内容ですか?
林小春: 先日は「和のマナーとビジネスマナー」という講演をさせていただきました。ビジネスマナーって、洋のマナーだと思っていらっしゃる方が多いのですが、日本のビジネスマナーは和のマナーです。例えば、海外では名刺交換しないですし。
四代目 富田里枝: パーティーとかで何十人も会ったら、名刺交換しないと名前忘れちゃいますね。
林小春: パーティーの場合は『プロトコール』、つまり世界共通マナーになります。
四代目 富田里枝: プロトコールは、和のマナーとかなり違うのですか?
林小春: 根底にあるものは同じです。お互いに気持ち良く過ごすためだったり、相手のことを考えた振る舞いだったり。ただ表現のしかたが違うのです。それから、生活様式の違いもあります。椅子なのか、畳なのか。あるいはテーブルの高さによって所作の形も違ってきます。
四代目 富田里枝: ビジネスマナーでは、名刺交換とかお辞儀の仕方などを教わるのですか?
林小春: そうです。日本のビジネスマナーには、礼法が大きく関わっているのです。私はあえて「礼法」を「作法」とは使い分けています。礼法は、江戸時代の武士の世界での決まり事なんです。公家の時代から武士の時代になって、江戸幕府によって集大成された作法、これが礼法です。
四代目 富田里枝: なるほど。
林小春: 礼法は、より男性的で、儀礼的です。だから、そのまま生活の中には持ち込めない。
四代目 富田里枝: 忠臣蔵の話ですね。浅野内匠頭が、儀式儀礼を知らないばっかりに、吉良上野介にバカにされて切りつけてしまった…。
林小春: そうです、そうです。その流れを汲んでいるのが礼法なんです。たとえば席次の決め方などは、プロトコールとは異なるのです。お殿様が座っていた席が、今でいえば、会長の席だったり。
四代目 富田里枝: 席次を間違えたら、出世に関わるよねー、たしかに(笑)。
林小春: それから、浅草の「茶寮一松」さんで、従業員の方々にサービスマナーの集中レッスンもさせていただいています。
四代目 富田里枝: サービスマナーはビジネスマナーとはまったく違うものですか?
‘格合わせ’が大事なんです。
林小春: TPOによって、自分の立場にふさわしい振る舞いをするのがビジネスマナーですが、サービスマナーはおもてなしする側としての所作になります。
四代目 富田里枝: 他に、和のマナーで特徴的な部分ってありますか?
林小春: すべてのものには‘格’があることでしょうか。自分が好きか嫌いか、似合うか似合わないか、それだけではなくて、‘格合わせ’が大事なんです。
四代目 富田里枝: ‘格合わせ’って?
林小春: 例えば、すごく好きな人から、デートに誘われたとします。気持ちの良いお天気だから、公園でランチしようとなりました。その時、自分をとびきり素敵に見せたいからといって、真っ赤なロングドレスを着て行くでしょうか?
四代目 富田里枝: それは無理ですよね。
林小春: どんなに素敵で自分が気に入っていたとしても、TPOがずれていたら間違いになるのです。ちょっといいお店に入る機会があったら、それは意識したほうがいいですね。このお客さんだったら良いかどうか、お店側に判断されているから。京都なんかではとくに。
四代目 富田里枝: あー、気を付けます(笑)。自分をもっと高めたい、魅力的になりたいのは、年齢や職業に関係なく、女性の潜在的な意識だと思うのです。たとえば女性誌では「○歳若く見えるメイク」とか「○キロやせて見える服」なんていう特集をしょっちゅう組んでいるでしょう?
林小春: おっしゃるとおりです。
四代目 富田里枝: ファッションだったら、どこのお店で何を買って、どうやってコーディネイトすればいいかわかるけど、きっとそれだけじゃダメだと感じている人が、小春先生の教室へ通うのでしょうね。
林小春: 内面から出る所作だとか、相手に対する気持ちの表現の仕方を学ぶことで、よりステップアップできると感じてくれているのだと思います。
四代目 富田里枝: 最近は就職状況も厳しいと聞きますが、企業の採用担当者は、そこを評価するのでは? ひとりよがりではなく、TPOに合わせて、または相手に対して、ふるまうことができる人を採用したいと。
林小春: そうなんです。うちの生徒さんが、新人の採用担当をしているそうで、面接で何を見るかといえば、まずはコミュニケーション力が必要だと話されていました。一緒にやっていける人かどうかが重要なんですって。
四代目 富田里枝: 小春先生のおっしゃる‘間’にしても、相手の印象をよくするためだから、やはりコミュニケーション力の一つですよね。所作やマナーを知ることって、人間関係を作る大事な鍵なんだということが、よくわかりました。今日は、どうもありがとうございました!
2012年4月12日 浅草「茶寮 一松」にて。
マナーの先生って、怖くて厳しいイメージがありますが、小春先生は笑顔が可愛くて優しい、一緒にいるとホンワカ和む、そんな女性です。
マナーとか所作というと、自分には関係ないと思っている人が多いと思います。でもその目的は「他人に与える好印象」だったり「コミュニケーションをスムーズにさせる」こと。
ですから、就活、婚活ではかなりアドバンテージを持つはず。または会社の中や取引先との人間関係には、非常に役立つと思います。
下駄屋.jp webmaster 富田 里枝
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