和装人インタビュー

第60回 杵屋 三澄那 さん

母が今の私くらいの頃、浅草芸者のゆう子姐さんに小唄を習っていたので、私も50歳を過ぎたら何かしら習いたいと思っていました。
うちのお客さまには邦楽の演奏者の方が多いですし、浅草でも関係者には事欠かないのですが、なんとなく決めかねていたのです。そんな折り、着物つながりの友人たちが通っている長唄教室を見学にうかがったところ、松浦奈々恵(杵屋三澄那)先生の明るいお人柄に惹かれ、今年に入って四谷のお稽古場に通わせていただいています。

 

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杵屋三澄那(きねや さんすみな)

 

愛知県出身。東京藝術大学音楽部邦楽科卒業。同大学同大学院修士課程修了、在学中に「常英賞」受賞。宮内庁桃華楽堂において、御前演奏を行う。三味線を杵屋三澄、長唄を岩瀬尚美の各氏に師事。1998年初代杵屋三左衛門より、杵屋三澄那の名を許される。藝大卒業生による長唄研究団体「長唄東音会」の同人であり、「東音松浦奈々恵」の名でも活動している。
舞踊会、NHK FM放送、テレビなどに出演。後進の指導と啓蒙活動に取り組む。2012年NHK・Eテレ「にっぽんの芸能」、2014年テレビ朝日「題名のない音楽会」、2014年国立劇場主催「明日をになう新進の舞踊・邦楽鑑賞会」などに出演。
長唄「那胡の会」主宰。
http://www.sansumina.com 

 

 

小学5年生の時に、初めて篠笛と能管に出会った

 

四代目 富田里枝: 私は和装履物の店をやっているので、お客さまには邦楽のお仕事をされている方々が多いですし、周りに歌舞伎や文楽が好きな人がけっこういるので遠い存在ではないのですが、一般的には今、邦楽全般にあまり馴染みがないのだと思います。 奈々恵先生は、邦楽のお師匠さんのおうちに生まれたとか、そういう環境だったのでしょうか?

杵屋三澄那: いえ、まったく一般家庭で(笑)、たまたま出会ってこの世界に入ったのです。小学校の音楽の先生が邦楽を授業に取り入れていたのがきっかけです。一学年200人分の篠笛と能管を手作りしてくださって。

四代目 富田里枝: すごい!手作りで!?

杵屋三澄那: そう、音楽室で、塩ビ管を電気のこぎりで切って…。山田隆先生とおっしゃるのですが、40歳位までは声楽を専門としていて、授業でも普通にリコーダーとか合唱だけでしたが、ある時ふと日本人なのに日本の音楽について何も知らなかったという思いが生まれ、子ども達に邦楽の魅力やおもしろさを伝えたいと考えられたそうです。

四代目 富田里枝: なるほど。

杵屋三澄那: そんなわけで小学5年生の時に、初めて篠笛と能管に出会ったのですが、私がそれなりに器用に笛を吹いたらしく、山田先生から「本格的にやってみませんか?」と声を掛けていただいたんです。うちの両親も説得してくださって、中学生になってからは先生のご自宅で三味線を習うようになりました。

四代目 富田里枝: まさに恩師ですねぇ。最初からプロを目指すつもりだったのですか?

杵屋三澄那: いえ、自分で決心したのは高校生の時で、それまでは運動も好きだったので、体育の先生になろうと思っていたのです。父が体育教師だったこともあって。

四代目 富田里枝: そうなんですか!

杵屋三澄那: はい、でも怪我をしてスポーツの道を諦めて、自分が目指すものがなくなって、そんな時に三味線があったのです。当時はとにかく三味線を習うのが楽しくて。でも、いつも山田先生に耳の横で「芸大に行くんだよー」って唱えられていたような気がします(笑)。それで月に一度、東京から来てもらえる先生を紹介してくださり、それが今の師匠の杵屋三澄先生です。

四代目 富田里枝: 山田先生は才能を見出す目がおありだったのですねー!

杵屋三澄那: 先生の生徒が芸大に5~6人は入ってます。その確率はすごいかもしれませんね。息子さんは歌舞伎や日本舞踊会で活躍されている福原寛さんです。

四代目 富田里枝: あ、そうなんですか! 昨年、浅草で歌舞伎の勉強会があり、ゲストで福原寛さんが出演されたんですよ。それで、奈々恵先生は高校を卒業して芸大に入学されたのですが、芸大って邦楽専門の学部があるのですか?

杵屋三澄那: はい、音楽学部邦楽科という中にさらにジャンルが分かれていて、お能、お琴、尺八、お囃子などあって、私は長唄三味線で入りました。

四代目 富田里枝: やはり邦楽のおうちの子弟が多いのですか?

杵屋三澄那: そうですね、私の頃でも一般家庭の子は増えてはいましたけど、家族がなにかしら邦楽をやっているという人が多かったです。

四代目 富田里枝: でしょうねぇ。その後大学を卒業後、プロの演奏家の道へ。奈々恵先生は、邦楽の垣根を低くしたいという思いで、一般の人達向けの演奏会やワークショップを企画されているのですよね。(※詳細は下記)

杵屋三澄那: そうなんです。演奏家でワークショップを開く人はあまりいませんが、初めての人に三味線に触れてもらうきっかけになればと。

 

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四代目 富田里枝: 私の母方の伯父は若い頃、三味線がたいそう上手だったと聞きました。当時うちの向かいの呉服屋さんの二階に小唄の教室があって、近所の人たちが習いに行っていたそうで。昭和30年代頃までは、三味線はとても身近だったんじゃないかと思います。土地柄かもしれませんが。

杵屋三澄那: 花街がある土地だからというのは、ありますよね。お座敷遊びがあってこそ、というのでしょうか、遊びにいらしたおじさま方がちょっと唄える、小唄や端唄を習っているということがステイタスでもあったんでしょうね。

四代目 富田里枝: なるほど! 旦那衆が小唄や三味線をできるのって、商談などにも役立ったのかも。今でいえばゴルフみたいな感じかな。

杵屋三澄那: 音楽も今みたいに洋楽があるわけではないし、これがポップスだったわけです。その頃の流行歌を長唄の中にも取り入れているんですよね。

四代目 富田里枝: へぇーっ!

杵屋三澄那: 基本的には長唄は歌舞伎のバックミュージックで、歌舞伎や日本舞踊ありきで発展したジャンルで、観賞用に作られるようになったのは江戸後期なんです。

四代目 富田里枝: 芝居のこの演目はこの長唄って、当たり前のようにみんなが知っていたのでしょうね。

杵屋三澄那: 他に娯楽がない時代ですから、あふれていたんじゃないですかねぇ。歌舞伎座、名古屋の御園座、京都は南座、九州は博多座など、芝居小屋がある土地ってやっぱり、芝居に付随した音楽も発達しているんです。

四代目 富田里枝: ほんとにそうですね! でも長唄を今の人たちが聴くと、歌詞の意味とか、単語そのものがわからなかったりすると思うのですが、それでも楽しめるポイントってありますか?

杵屋三澄那: そうですねぇ…単純にメロディを楽しんでいただける曲もありますし、長唄は囃子が入る曲も多いので、軽快でノリが良い曲だったら、邦楽って眠くなるというイメージ払しょくできるかしら。

四代目 富田里枝: なるほど。

杵屋三澄那: 江戸で栄えているので、浅草や門前仲町あたりの風景を描いている曲がけっこうあって、<江戸橋、鍛冶橋、日本橋>とか今でも残っている橋が登場したり、ちょっと身近に感じるかもしれないですよね。「都風流」という曲には菊供養とかべったら市とか、江戸の行事が四季の移ろいとともに唄われています。

四代目 富田里枝: やはり日本舞踊と一緒に楽しむとさらに楽しいですね。歌詞がわからなくても振りを見れば理解できるし。日本舞踊は当て振りで、日常生活の動き…縫い物をしたり、お水を汲んだり、パントマイムのように表現しますよね。

杵屋三澄那: 日本舞踊も長唄と同じく、歌舞伎ありきなのです。初期の歌舞伎は演劇と舞踊と音楽が分かれていなくて、後に演劇の部分が多くなってゆき、舞踊としての要素を抽出して創り上げていったのが歌舞伎舞踊で、日本舞踊の根幹となってゆくわけですね。(※註)

(註:日本舞踊は約400年の歴史があり、歌舞伎舞踊の他、上方舞、京舞、創作舞踊などがあります)

四代目 富田里枝: 私も長唄を習い始めたのは、歌舞伎をより理解して楽しめるようになるかなーと思ったからなんです。 ここで三味線の基本を教えていただきたいのですが、長唄で使うのは、細棹三味線ですよね。小唄も細棹ですか?

 

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杵屋三澄那: えーっと、小唄、端唄はほぼ中棹です。 中棹はいろいろですべて同じ大きさではないんです。清元や常磐津などは中棹なのですが、山田流のお琴に付随している三味線に限り細棹。生田流のお琴は中棹です。義太夫、津軽三味線は太棹になります。

四代目 富田里枝: 長唄は大人数で弾くから細棹なんですか?

杵屋三澄那: というより、細くて音が繊細だから、音量を出すために人数を多くしなければならないということはあります。以前、三味線屋さんにお聞きしたのですが、どうして中棹、細棹が登場したかというと、江戸の人々がそういう音を求めたからだと。

四代目 富田里枝: 江戸で?

杵屋三澄那: 楽器として三味線は大阪で発祥しているのです。堺に三線(さんしん)が入って来て、琵琶の影響で三味線の形になってゆき、撥(バチ)が使われるようになります。ですから関西では地唄や文楽の三味線が中心で、中棹が主になるわけなんです。 それが上方から江戸に入って来て、江戸っ子はボンボンした音より威勢の良い音がいいよっていうことで、江戸の人々の好みに合わせて、江戸の職人さんが細棹の三味線を作ってきた、そんなところのようです。

四代目 富田里枝: なるほど。細棹の三味線が登場したことにより、逆にお芝居で使われる音楽も変わっていったり、きっと双方向で影響があったんでしょうね。小唄・端唄というのは、いわゆる流行歌なのですか?

杵屋三澄那: そうですね、人の気持ちを歌ったり、惚れたはれたが多いですね。お座敷の音楽で、お部屋の中で楽しむ唄です。なので、胴に当ててしっかり音を出す長唄とは三味線の弾き方も違って、爪弾くのが小唄です。

四代目 富田里枝: 単純に、長唄より短いということもありますか?

杵屋三澄那: はい、そのとおりです。やはり長唄は劇場音楽なので、大きな音を出さなければ聴こえませんし、唄もしっかり聴こえるように声を張って歌いますね。ポップスとオペラくらい違うのです。

四代目 富田里枝: 清元・常磐津は、長唄とどこが違うのでしょう?

杵屋三澄那: うーん、長唄と違う点は単純に言えば、語るものと、唄うもの、ということかしら。

四代目 富田里枝: そうなんですね!

清杵屋三澄那: 清元・常磐津は物語性が強くて、役柄があって台詞を語るので、文楽などの影響を大きく受けていて浄瑠璃ものと呼びます。 一方、長唄はメロディラインがあり、その名前のとおり<唄う>のです。語る部分もありますが、基本的にきれいなメロディだと思います。 イメージとしては、しゃべってるのと、歌ってるのの違い、かな。

 

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四代目 富田里枝: よくわかりました! 先生のお教室に習いに来ている方は、芸大の学生さん達は別として、どんなきっかけの方が多いのですか?

杵屋三澄那: 看板も出していないので、ほとんどどなたかのご紹介ですが、ワークショップで出会った生徒さんが多いです。ワークショップを始める前は、津軽三味線をどこかで聴いて、三味線の種類などはまったく知らずに来るかたもいらっしゃいましたね。

四代目 富田里枝: あー、たしかに、テレビなどでいちばんよく出てくるのは津軽三味線ですものね!そういわれてみると、邦楽には馴染みがないといっても、知らず知らず日々の生活でなにかしら聞いているのかもしれません。

杵屋三澄那: そういうことはあるんじゃないでしょうか。歌舞伎を観たことがなくてもテレビのCMで能管の音が使われていたり、お正月になればテープであってもお琴の曲が流れるとかね。お寺の木魚だってそうです。日本人なら、どこかしら懐かしい部分はあるのでしょう。

四代目 富田里枝: そうですね。西洋音楽との違いの一つに、指揮者がいるかどうかという点があると思います。長唄が何人も横にずらり並んでいて、指揮者もいないのにぴたりと合ってるのって、どうしてなんでしょう。

 

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杵屋三澄那: 芸大で毎年、邦楽の演奏会があり、芸大ならではという試みでオーケストラの指揮者と邦楽が演奏するのですが、私たち長唄三味線は、通常は左右の息を読み取って演奏しているので、指揮者のカウントを取るのに苦労しますね。

四代目 富田里枝: あんなに大人数で、息を読み取っているのですか!?

杵屋三澄那: タテ三味線というコンサートマスターに当たる役目があるのですが、ワキ三味線はひたすらその息を狙っています。「ヨッ」という掛け声などで息を読み取り、間を取るのです。

四代目 富田里枝: メトロノームのリズムではないですよね。なんというか、微妙な時間差があって…。

杵屋三澄那: そうですね、アバウトなんです。

四代目 富田里枝: その微妙な間を、全員が合わせているのですか?

杵屋三澄那: それが息を合わせるということで。

四代目 富田里枝: すごいなぁ!

杵屋三澄那:ですから、西洋の音楽ではメトロノームを使用して練習しますが、私たちはそんな練習はしたことがないから、指揮者と合わせるのが大変なのですね。

四代目 富田里枝: オペラもお芝居とオーケストラで一つの舞台ですよね? でも指揮者がいるから…。歌舞伎の場合は、どうなんでしょう?

杵屋三澄那: 歌舞伎は役者さん第一で、役者さんの要望に応えようとするのが長唄やお囃子なのです。長唄なら、タテ三味線は役者さんをひたすら見て演奏し、ワキ三味線はタテの息をとることに集中するわけです。長唄やお囃子と、役者さんの息がぴたりと合ったら気持ちのいい舞台になり、観ているお客さんも気持ちいいですね。

四代目 富田里枝: 歌舞伎もそうやって観ると、また新たなおもしろさ、楽しみ方がありますね! 長唄や三味線の魅力も、さらによくわかりました。今日はどうもありがとうございました!

 

 

 

※第1回「那胡の会ライブ」

長唄とお茶(お抹茶&お菓子)を楽しむイベントです。ホールとは違う、和室での三味線をはじめとする和楽器のライブです。
ご希望の方には、終演後に三味線や笛にも触っていただけます。

◆日時:平成29年6月24日(土)

第1部 呈茶 13:00~13:30 13:30~14:00  演奏 14:00~15:00
第2部 呈茶 15:00~15:30 15:30~16:00  演奏 16:00~17:00

◆会場:新宿区愛住町21(関口宅 1階・2階)養国寺左隣

◆お問合せ・お申込み
mail:   nakonokai.0021@arion.ocn.ne.jp
tel:    080-1011-4053

第1部はキャンセル待ちとなっております。第2部はまだ若干空席があります。

 



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