和装人インタビュー

第54回  「庭のホテル 東京」 総支配人 木下 彩 さん

水道橋駅の東京ドームと反対側は大学や専門学校の多い学生街。チェーンの居酒屋や定食屋が並ぶ街に現れる「庭のホテル 東京」は落ち着いたたたずまいのおしゃれなホテルです。総支配人の木下彩さんは、競争の激しいホテル業界で戦っている…というイメージとはほど遠く、とても穏やかな優しい雰囲気の女性です。

 

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木下 彩(きのした あや)

上智大学外国語学部英語学科を卒業後、株式会社ホテルニューオータニに入社。1986年同社を退社。1994年株式会社東京グリーンホテル(現株式会社UHM)に入社、取締役に就任。1995年代表取締役に就任。2011年より庭のホテル東京の総支配人を兼務。2013年3月、日本ホテル産業教育者グループ選考の第9回「ホテリエ・オブ・ザ・イヤー2012」を受賞。

庭のホテル東京 公式サイト http://www.hotelniwa.jp/

 

 

 

 

子どもの頃は、番頭さんや女中さんに遊んでもらった、そんな生活でした。

 

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四代目 富田里枝: こちらのホテルは、元々は旅館だったとか。

 

木下 彩: はい。1935年に私の祖父が水道橋の森田館という旅館を買い取り、3年後に神田淡路町で「佐々喜」という旅館もオープンし、2軒の旅館を経営しておりました。

 

四代目 富田里枝: 木下さんはこちらで生まれ育ったのですか?

 

木下 彩: そうです。「森田館」の中で家族と共に暮らしていました。子どもの頃は、番頭さんや女中さんに遊んでもらった、そんな生活でした。昔は温泉旅館などとは違う、修学旅行や商用で泊まるような、こういうタイプの旅館が東京にたくさんありました。

 

四代目 富田里枝: そういえば浅草にも小さな旅館がたくさんあったような記憶があります。

 

木下 彩: 時代とともに旅館という形態は難しくなり、私の父が1970年前後に2軒の旅館をそれぞれ「東京グリーンホテル」というビジネスホテルに建て替えました。日本人のライフスタイルが変化し、仲居さんがお部屋に入ってくるのはイヤだとか、お風呂は自分の部屋で入りたいとか、そういったニーズが高まってきたのです。

 

四代目 富田里枝: 私、実は20年位前、このすぐ近くに勤めていたので「グリーンホテル」よく覚えています。

 

木下 彩: そうなんですか!ビジネスホテルという業態の先駆けだったと思います。父が目指したのは最小限の面積に、最低限必要なものは全部収めて、快適かつ安価に泊まれるホテル。当時は珍しかったので、オープン当初あまりにも予約が殺到し、数か月後に値上げしたほどでした。

 

四代目 富田里枝: 時代のニーズにぴったり合ったのですね。木下さんは子供の頃からホテル業を継ごうと決めていたのですか?

 

木下 彩: いえいえ!父が他界した後、ホテルを経営していた母が60代で亡くなってしまい、私は兄が2人いるので、どちらかがやるのかと思っていたのです。それが2人とも別の職業に就きまして、結局まだ幼い子どもを2人かかえた私が引き継ぐことになったんです。

 

四代目 富田里枝: 木下さん、以前はホテル・ニューオータニに勤めてらしたとお聞きしましたが。

 

木下 彩: ええ。でも家業を継ぐための修業というわけではなく、当時は大卒女子の就職難で、たまたま縁があったのがホテルだったのです。当時の経験が役に立っていないわけではありませんが、フロントの一スタッフと経営は違いますから。

 

四代目 富田里枝: 会社の規模はかけ離れていますが、私も似た状況で家業を継いだので、他人事とは思えません(笑)。

 

木下 彩: 私が引き継いだのはバブルがはじけた後の厳しい時期でしたが、幸い交通の便が良く立地に恵まれていたので、しばらくはそれほど影響はなかったんです。でもさすがにその余波がじわじわとやってきて、同時に全国展開する大手チェーンのホテルが次々と現れ、ホテル業界は低価格競争になっていきました。うちは建物も老朽化していたし、インターネットなどビジネス設備のニーズも高まり、とても大手ホテルとは太刀打ちできないな、と。

 

四代目 富田里枝: 確かにこの10年位で、安さ勝負のビジネスホテルは増えましたよね。

 

木下 彩: で、「東京グリーンホテル水道橋」を閉館して、まったく新しいコンセプトのホテルを作ろうと考えました。

 

 

こんなにいいホテルができたのだから、絶対にお客さまが来てくださるに違いない

 

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四代目 富田里枝: そして「庭のホテル 東京」が生まれたわけですね!

 

木下 彩: リーマンショックの翌年にオープンしたので、オープン当初の稼働率は低かったです。当然無名のホテルですし、広告費を使えるわけでもないので、地道にやっていくしかないよね、という感じでした。

 

四代目 富田里枝: ものすごく悩んだんじゃないですか?

 

木下 彩: それが私は楽天的というか、そんなに悩みませんでした。こんなにいいホテルができたのだから、知られるようになったら絶対にお客さまが来てくださるに違いないと。

 

四代目 富田里枝: そのとおりになりましたね!

 

木下 彩: ありがたいことに。メディアに取り上げられることも増え、開業した2009年から5年連続、「ミシュランガイド東京・横浜・湘南」のホテル部門で「快適なホテル」として2パビリオンの評価をいただきました。またホテル・旅行のクチコミサイト「Trip Advisor」ではTRAVELER’S CHOICE 2013を受賞し、国内のホテルで第10位の評価を受けました。

 

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四代目 富田里枝: すごいですよねぇ…。それまでとまったく違う業態へ変えたのは、かなり勇気のいることだったと思います。木下さんの中に明確なイメージがあったのでしょうか。

 

木下 彩: まずは、ゆっくり寛げるホテルにしたいと思いました。せっかく日本旅館から始まったという伝統があるので、そこは活かせたらいいなと。一方、日本のマーケットは縮小していく一方なので、海外からのお客さまを呼び込みたいということも。

 

四代目 富田里枝: なるほど。

 

木下 彩: そして、いちばん大事にしたかったのは、価格ではなく別の価値で選ばれるホテルにすることです。最終的に、自分が泊まりたいホテルを作ろうと考えました。

 

四代目 富田里枝: 木下さんご自身が泊まりたいホテル?

 

木下 彩: はい。万人受けする必要はないと。もし1000室、2000室あるような大規模ホテルだったら難しいと思いますが、私共の規模で、日本人だけでなく海外のお客さまも含めたマーケットなら、私と気が合う人はきっといるに違いない。たとえば極端な話、238室×365日分のお客さまが1年に1度泊まりに来てくだされば満室になるわけで、それならなんとかなるかなぁと。

 

四代目 富田里枝: 具体的なコンセプトというのはあるのですか?

 

木下 彩: はい。「美しいモダンな和のホテル」というコンセプトに決めました。というのは、私にとってはいちばん落ち着く、ほっとするのが「和」ではないかと。それも、私たちが生きている平成の時代の価値観で美しい、心地よいと感じられる「和」にしたいと。

 

 

上質で心地よい日常を

 

四代目 富田里枝: なるほど。日本人が持っている和のイメージと海外の方から見た和のイメージは違うと思うのですけれど、最初のコンセプトから細かい部分に落とし込んでいく場合、どのあたりを目指したのでしょうか。

 

木下 彩: そうですね。あえて外国人受けしそうなものは考えておりませんでした。ちょうど、和をコンセプトにしているラグジュアリーなホテルがいくつもオープンした頃だったのですが、私から見ると「外国からみた日本的なもの」という印象でした。どこかの大使館の奥さまが好みそうな…たとえば帯地をテーブルセンターにしたり、西陣織のクッションがある、とかね。

 

四代目 富田里枝: オリエンタルなインテリアを載せた外国の写真集みたいな。

 

木下 彩: そうそう。そういった豪華絢爛な和は、うちのイメージではないわけです。

 

四代目 富田里枝: それはお客様の層とか立地など考慮されたからですか?

 

木下 彩: うーん、というより私の好みですね(笑)。

 

四代目 富田里枝: 好みですか!

 

木下 彩: 目指したのは、ほっとできる、落ち着ける空間です。非日常ではなくて、上質で心地よい日常を提供したい。調度品や備品類も、限られた予算の中で一つ一つのものにはこだわっています。私が好きなものから少し幅を持たせた範囲の中で、納得したものを選んでいます。たとえば普通よりちょっとおしゃれな障子にしたりとか。

 

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四代目 富田里枝: 日本のものは、シンプルで美しいものがたくさんありますよね。

 

木下 彩: 私、着物もほとんど無地や縞、格子が多いですし。今日は浴衣に半衿付けて着ているので、ちょっと例外ですけど。

 

四代目 富田里枝: 木下さん、着物は元からお好きだったのですか?

 

木下 彩: 着物好きだった母の着物が箪笥二棹あって。そのうち気に入ったものを私の寸法に直しています。

 

四代目 富田里枝: お母さまはお仕事で着ていらしたのですか?

 

木下 彩: そうですね、母は冬の間はほとんど着物で過ごしていた時期もありました。

 

四代目 富田里枝: まだ着物を日常着にしていたギリギリの世代ですね。

 

木下 彩: そう、昭和4年生まれでしたから。旅館でしたので、母が毎日着物でいてもまったく不自然ではなかったんでしょう。

 

四代目 富田里枝: 旅館の時代のこと、覚えていますか?

 

木下 彩: うちの旅館は4階建てで、この辺りでは高層でした。近所の小学校に通っていて、よく同級生が遊びに来ては旅館の中を走り回ったりして遊びました。同級生とは今も仲が良くて、来月もいっしょに旅行する予定なんですよ。

 

四代目 富田里枝: どういったうちの子どもが多かったですか?

 

木下 彩: 神保町の本屋さん、和菓子屋さん、お豆腐屋さんとか、お風呂屋さんとか。勤め人の子どもは少なかったですね。昔も今も、都会なんだけれども隣近所とのお付き合いが適度にある地域なんです。

 

四代目 富田里枝: 「庭のホテル」も、町の人たちとの交流を大事にしているとおっしゃってましたね。

 

木下 彩: はい。町内会の集まりがあったり、三崎神社のお祭り前の数週間はロビーに神輿を飾らせていただき、当日はホテルの前が担ぎ手の休憩所になります。

 

四代目 富田里枝: ホテルの前に神輿がいる風景、見てみたいですねぇ~!

 

木下 彩: 「庭のホテル」の工事が始まる前に、騒音や振動などでご迷惑をおかけすることを近隣の皆さんにご説明した際も、「グリーンホテルさんが新しくなるのは私たち楽しみにしているから」とおっしゃっていただいて、ありがたかったです。

 

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旅行者も暮らしてるような気分になるのかな

 

 

四代目 富田里枝: 海外からのお客さまが多い一方で、これほど地域に根ざしているホテルも珍しいのではないでしょうか。

 

木下 彩: ふつうの日本人の日常というのが、海外のお客さまにも伝わるのかもしれません。あえて見せようとしているわけではないけれども。

 

四代目 富田里枝: 都心にありながら、暮らしを感じられるホテルというスタンスは「庭のホテル」の特徴ですね。外国人から見た東京のイメージって、暮らしと結びついていないんじゃないかと思うんです。

 

木下 彩: そうですね。この辺りは学生が多いので、食券を買って食べるような安いラーメンや丼物のお店もいろいろあるから、旅行者も暮らしてるような気分になるのかな。

 

四代目 富田里枝: 文化発信もいろいろやっておられますね。

 

木下 彩: うちのスタッフの発案なのですが、「三崎町サロン」はオープン時から続けていて次が18回目になります。江戸しぐさや室礼、味噌づくりなど、日本文化や歴史を楽しく学び体験していただくサロンです。「江戸まち歩き」も好評で、散策の後ホテルのレストランでランチを召し上がっていただくのですが、毎回キャンセル待ちになります。

 

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四代目 富田里枝: 楽しそう!「庭のホテル」はレストランも人気があるんですよね。

 

木下 彩: はい。レストランは採算が合わないのではないか、テナントを入れたらどうかという意見もあったのですが、レストランも直営にしました。うちに20年勤めてくれている調理長をはじめ、調理のスタッフを抱えているからという理由がひとつ。でもそれよりも、スタッフに接客の喜びを感じてもらいたいと考えたからです。レストランはお客さまが長時間いらっしゃるので、スタッフとお客さまの接点が多く、ホテルマンとしてのスキルアップにも役に立つと思っています。

 

四代目 富田里枝: なるほど。

 

木下 彩: フロントの仕事って、お客さまとはチェックイン、チェックアウトの際以外は直接のコミュニケーションがあまりないんですよ。

 

四代目 富田里枝: 言われてみるとそうかも。

 

木下 彩: お客さまにとっても、ただ泊まるだけでなく、プラスアルファがあるホテルにしたいと思っています。

 

四代目 富田里枝: レストランは、グリーンホテルの時とは違う内容やサービスだったりしますか?

 

木下 彩: それが、以前もビジネスホテルにしてはこだわった和食のレストランだったので、宿泊以外のお客さまも多かったんです。「庭のホテル」になってからは和食とフレンチの2店になりましたが、旅館のように1泊2食のプランで、うちで食事をするのを楽しみに来てくださる方も少なくありません。

 

四代目 富田里枝: 東京に遊びに来たから泊まるというより、「庭のホテル」に泊まること自体が目的になるのかもしれませんね。

 

木下 彩: ホテルそのものが楽しさにつながってくれればうれしいです。

 

四代目 富田里枝: 2020年の東京オリンピックに向けて、海外からのお客さまを増やそうという取組みをしているホテルも多いと聞きますが、「庭のホテル」ではいかがですか?

 

木下 彩: 外国人向けのアピールをとくに強くしたわけではありませんが、口コミで自然に増えていき、最近では平均で50~60%、多い月は75%が海外からのお客さまでした。かなり多くの割合で「東京に来るときには必ず「庭のホテル」に泊まる」と書いてくださっているので、ありがたいですね。

 

四代目 富田里枝: 「おもてなし」という言葉が盛んに使われていますが、「庭のホテル」は前身が旅館だったからか、とても家庭的な感じがするので、海外からのお客さまにも伝わるのだと思います。今日はお忙しいところ、ありがとうございました!



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