第53回  浅草芸者 聖子 さん

妹と仲良しなので、気軽に聖子ちゃんと呼んでいますが、浅草花柳界では指折りの売れっ妓。 浅草の芸者さんはみんな、気取らなくて稽古熱心な人が多いのですが、聖子さんもそう。そして年下と思えないほどしっかりした芯の強さを感じていました。今回インタビューさせていただき、まっすぐな人柄と生き方に、あらためてかっこいいなぁと思ったのでした。 辻屋本店四代目 富田里枝

 

 

聖子(せいこ) 新潟県糸魚川市出身。日本舞踊 藤間流名取。鳴物・笛 望月流。お茶 江戸千家。

浅草見番公式ホームページ http://www.asakusa-kenban.jp/  01[1]

 

 

 

 

 

 

 舞台に上がって扇子を持って踊ると、両親やおじいちゃん、おばあちゃんが褒めてくれるのがうれしかったんです。

 

四代目 富田里枝: いつもお忙しそうですねぇ。世間一般では、芸者さんは夜、お座敷でお酌して踊ってるだけっていう認識だと思うんですけど、実際には昼間は毎日お稽古で。踊り以外のお稽古もいろいろあるんでしょう?

聖子: お囃子、お三味線、長唄、笛、お茶。今、5つですね。

四代目 富田里枝: お休みの日でも踊りの会とか、お付き合いもあるみたいだし。聖子さんは、新潟の糸魚川市出身ということですが、芸者さんになったのはおいくつの頃ですか?

聖子: 22歳で、芸者のお披露目をしました。

06[2] 四代目 富田里枝: それは早い方?遅い方?

聖子: どうですかねぇ。私は半玉ではなく最初から一本でしたが、関東では18歳から花柳界に入れますから、若い人にもどんどん入ってきてほしいです。今、浅草には千華ちゃんという半玉さんが頑張ってます。

四代目 富田里枝: 「一本」というのは一人前の芸者さんという意味で、「半玉」は歳が若い芸者さん。玉代(ぎょくだい)が一人前の芸者の半分であったことから、そう呼ばれるんですよね。聖子さんが芸者という職業を選んだのは、どうして?

聖子: 子どもの頃から日舞をやっていたので、好きなことを仕事にしたいと思って。

四代目 富田里枝: 日舞は何歳くらいから?

聖子: お扇子を初めて持ったのは3つですけど、ラジオ体操に毛が生えた程度で(笑)。母が習っていたから、お稽古にくっついていったの。小さい頃は自分が好きでやってたというよりも、舞台に上がって扇子を持って踊ると、両親とかおじいちゃん、おばあちゃんが「がんばったね!よかったよ」って褒めてくれるのがうれしかったんです。

四代目 富田里枝: わかります、わかります。ごきょうだいは?

聖子: 兄と姉がいるんですけど、いちばん上の兄とは10歳離れています。

四代目 富田里枝: ちっちゃい聖子ちゃんが、こんなに上手に踊って!みたいな感じ?

聖子: そうですね、扇子もって踊るとみんなが喜んでくれて、お小遣いもらえるっていうような。

四代目 富田里枝: 基本的に、今と変わらないじゃないですか(笑)。天職ですね~! 浅草に来たのはどういうきっかけで?

聖子: 糸魚川で日舞の手ほどきをしてくださった先生の、東京のお師匠さんが浅草公会堂で踊りの会にご出演するので、そこに私も出ないかとお話をいただいたんです。私は高校生だったんですけど、そのとき初めて東京の舞台で踊らせてもらいました。

四代目 富田里枝: 東京の初舞台がが浅草だったんだ。

聖子: 初めて鬘を被って白塗りをして。舞妓さんの姿をさせてもらった覚えがあります。

四代目 富田里枝: へぇ~!じゃあ、そのとき芸者さんににスカウトされたとか?

聖子: いえいえ、高校を卒業して普通に地元の会社に就職したんです。踊りは地元で続けていければいいかなって。

四代目 富田里枝: ご家族だって、かわいい末娘を近くにおいときたいよね。 08[1]

聖子: 私もなんの疑問もなくそう思ってました。ところが友だちが東京の学校に進学したり勤めたりしたので、遊びに来る機会が何度かあって、その時に浅草で芸者さんがいるってことを知ったんです。高校の時に初めて来た浅草には芸者さんがいて、踊りをお見せするのがお仕事になるんだって。それで、このまま糸魚川にいていいのかなって…なんか、スイッチが入っちゃったの。

四代目 富田里枝: 新しい世界にいってみようかなって。ご家族には反対された?

聖子: もう、すごい大反対ですよ。

四代目 富田里枝: 花柳界とは関係ない家庭だったんですか?

聖子: ええ、まったく。父はふつうにお勤めしてた人です。親にしてみれば、とくに不自由させているわけでもないのに、とんでもないことをこの子は言い出したと。1年くらい親を説得しました。

四代目 富田里枝: ご両親はよく首を縦にふりましたね。

聖子: 賛成してくれたわけではないんです。しまいには、自分たちだけじゃダメだというんで、親戚のおじさんに言い聞かせてもらおうとか、クルマ買ってあげるから、とか親の方もいろんな作戦に出て。

四代目 富田里枝: アハハハ! そりゃそうなりますよねぇ。

 

05[2]

 

聖子: でも私の考えは変わらなかっの。そもそも私自身、芸者衆の仕事をよくわかってなかったんです。ふつう、この仕事に就きたいと思ったら、いろいろリサーチして考えるのでしょうけど、私は「好きな踊りを仕事にできるなんて夢みたい!」って、もう情熱的に進んじゃったのね。お酌をしたり、お客さまとお話をしたりということ、何も考えてなかったの。

四代目 富田里枝: でも結局は娘を東京に行かせてくれた。

 

最終的に、東京にいっしょに来て見番で挨拶したのは父だったの。

 

聖子: 母は、行くと決めたんだったら帰って来るなと。それくらいの気持ちじゃなかったら出さないと言いました。でも父は、何かあったら帰って来なさいって。最終的に、東京にいっしょに来て「こんな娘ですがよろしくお願いします」と見番で挨拶したのは父だったの。母の強さもあり父の優しさもあって、こういう両親に育ててもらって幸せだなぁって感謝しています。

四代目 富田里枝: 泣かせる話ですねぇ…。それでいざこの世界に入ってみて、どうでした?

聖子: まず最初にお行儀見習いとして、置屋のお姐さんとお座敷にうかがわせてもらって、もうびっくりすることだらけ。お酌をしなくちゃいけない、初めて会った知らないおじさんとおしゃべりしなくちゃいけない。私ったらなんにも知らなくて(笑)。

四代目 富田里枝: えぇーっ! それは、あまりに情報不足ですね(笑)。でも見習いとはいえ、いきなりお座敷にあがるんだ。予行練習みたいなのはないの? 04[2]

聖子: はい。でも最初の1年半くらいは置屋のお姐さんとこに住み込みさせてもらっていろいろ教わりました。親も心配したし。

四代目 富田里枝: 置屋というのは、芸者さんを養育するとともに、所属事務所でもありますね。芸者さんたちは、それぞれ所属している置屋で、予約が入るまで待機している。ところで置屋をどこにするかは、どうやって決まるの?

聖子: それは見番の事務局長さんがその芸者の適性を見て決めます。だから事務局長の千葉さんは私の人生の恩人です。

四代目 富田里枝: ここでちょっと、基本的なことを教えてくださいね。まずお客さまが料亭さんに予約しますよね。次はどういうシステムになっているんですか?

聖子: 料亭さんが見番に、何月何日の何時に、この妓とこの妓をお願いします、と連絡します。お客さまからご指名があれば、それを見番に伝えます。

四代目 富田里枝: 見番は、料亭の予約を受けるほか、芸者さんのスケジュール管理や料亭への代金請求、芸者さんへの支払いなど、いわば芸能事務所のような役割なんですよね。さて話は戻りますが、いよいよお座敷にあがってみていかがでした?

聖子: 最初は何を話していいんだか、困りました。でもお座敷にみえるお客さまって、気持ちに余裕がある方がとても多いの。きのう今日出てきた田舎娘でも、ちゃんと教えてくださったり。高いお金払ってるんだから!という方はいらっしゃらない。

四代目 富田里枝: なるほど。でも芸者さんからお客さまに、たとえば職業とかは聞かないでしょう?話の糸口ってどうやってみつけるんですか?

聖子: いろんな方がいらっしゃいますから、波長が合う合わないはありますね。話をしなくても、なんとなく雰囲気が柔らかくなるお座敷もあれば、立つのも憚られるような空気の時もあるし。

四代目 富田里枝: まずこの話題をすれば間違いないとか、ありますか?

聖子: そうですねぇ。うーん…。基本的に私たちは聞き役なんです。自分がどんどんしゃべるというよりも。といっても話を引き出すには自分のことをちょっとしゃべることもあるし。

四代目 富田里枝: 難しいそうだなぁ。お座敷って、昔はお線香が消えるまでの時間で計ったと読んだことがあります。今は2時間単位なんですよね? その時間内で踊りを何曲とか決まっているんですか? 02[1]

聖子: タイムスケジュールがあるわけではないので、お酒を召し上がってちょっと空気が温まって、会席のお料理で焼き物が出てきた頃、そろそろお座敷つけましょうか、という具合です。

四代目 富田里枝: お座敷つけるっていうのは、お三味線や唄、踊りを披露するということですね。「とらとら」とか投扇興とか、ゲームもするんですか?

聖子: いえいえ、毎回やるわけではないですよ。そのお客さまが料亭は初めてで、期待してみえる時はしますけど。ゲームは場を和ませるアイテムの一つなんです。

四代目 富田里枝: 芸者さんの人数、例えば立方(踊り)と地方(唄、三味線)がをれぞれ何人というのは、予算によるわけですよね?

聖子: そうです。お座敷付けずに芸者1人という場合もあります。

四代目 富田里枝: 芸者さんが2人以上いたとして、進行役を決めたりするのですか?

聖子: 時間を気にさせないような空間を作るのが私たちの役目なので、なんとなく阿吽の呼吸というか、ふすまの外でお姐さんが三味線の調子を合わせる音が聴こえたら、そろそろお座敷付けたほうがいいのかな、とか察するわけです。

四代目 富田里枝: なるほど。

聖子: 察する能力がなかったら、芸者としては厳しいかも。

四代目 富田里枝: 鈍感な人もなかにはいるでしょう(笑)。

聖子: まぁ、それはそれで可愛いですけど。芸者衆が全員鈍くて、お三味線の音がしているのに誰も立たない、お客さまの杯がカラなのにボーっとしているようだと、ちょっとね。

四代目 富田里枝: アハハハ!たしかに。

聖子: でもお客さまも百人十色ですから、これが理想の芸者、というのも決まってないと思うし。

四代目 富田里枝: 先輩から教えられて守っていることとか、ありますか?

聖子: お客さまと同じく、芸者もいろいろですから、人それぞれおっしゃることが違う場合もあります。自分で一本、筋を通しておかないと。ですからこれまで迷った時、私は置屋のお姐さんから最初に教えてもらったことを選ぶようにしてきました。

四代目 富田里枝: うちの商売のように商品が介在するわけではなく、人と人とのコミュニケーションそのものがお仕事だから大変だと思うのです。そのうえ芸も磨かなきゃいけないし。

聖子: そうですね、芸事が好きじゃなきゃ続かないでしょうね。

四代目 富田里枝: 今は、ご両親も認めてくれてるの?

 

 

  浅草の芸者衆は気さくで話しかけやすいよねってお客さまにもよく言われます。

 

09[1]聖子: はい、このお仕事ってベールに包まれている部分が多いだけに、家族みんなは心配なんだろうなと思って、お披露目をさせてもらってから3年間、お小遣いを少しずつ貯めて、父、母、兄、姉の4人をお座敷に招待したんです。

四代目 富田里枝: なんていい話!

聖子: 私が家族に「ほかのお姐さん達も優しいし、変な世界ではないから」ってどんなに説明しても、百聞は一見にしかず、でしょう。

四代目 富田里枝: 親孝行しましたね~!

聖子: 私の仕事をどうしても実際に見てもらいたかったの。なんか、悔しかったんです。自分が頑張っている世界が誤解されるのが、私自身が嫌だったのね。

四代目 富田里枝: たしかに、まだまだ誤解が多い世界ですよね。昔よりはインターネットで情報も伝わっていますけど、普通に楽しめるってことをもっと知ってもらえたらいいのに。

聖子: そうですね。一方で今まで花柳界を守ってくださってきたお客さまもいらっしゃるし、すべてあからさまにしてしまうのもね…。芸者さんて昼間はどんな生活なんだろうって、本来はベールに包まれている部分も大切だと思いますが。

四代目 富田里枝: 夢の世界が壊れてしまう。

聖子: もちろん守ってばかりではなく、敷居を下げて、私たちも発信していかなくちゃいけないとも思います。

四代目 富田里枝: 芸者さんの素顔をわざわざ見せることはないと思うけど、お座敷の料金体系とかシステムをもうちょっと明確にしたら、入りやすいのではないかな。

聖子: それはあるでしょうね。

四代目 富田里枝: 東京には浅草の他にもいくつか花街がありますが、浅草の特徴ってなんでしょう?

 

07[1]

聖子: その町その町でカラーがあると思いますが、浅草の芸者衆は気さくで話しかけやすいよねってお客さまにもよく言われます。

四代目 富田里枝: 浅草の町自体が肩肘張らないで楽しめるから、芸者さんも親しみやすさがあるのでしょうね。料亭っていうと、政財界の会合みたいなイメージを持たれているのかもしれないけど、浅草は昔から普通の会社とか商店の人が多いと聞きます。

聖子: そうですね。ただやっぱり居酒屋さん価格ではないですけど。

四代目 富田里枝: でも、若くて羽振りのいい人たちがキャバクラとかじゃなくて、料亭でお座敷遊びしてみようって思うかもしれない。

10[1] 聖子: キャバクラでシャンパン開けるとかは想像がつくけれど、お座敷はルールがわからないから怖いんだと思うの。花柳界は、最低限のルールを守りながら遊ぶ大人の社交場だから、それをわきまえていただかないと、今まで育ててくださったお客さま方に申し訳ないし。敷居を高くするわけではないのだけど。

四代目 富田里枝: お座敷って、お金払っているんだから、何してもいいというのではなく、芸者さんや料亭さん側と、お客さまが一緒に楽しい時間を作るというものなんですね。今日は本当にありがとうございました。

2014年1月 浅草見番にてインタビュー

 

聖子さんもおっしゃるとおり、花柳界はベールで包まれている部分も多く、気軽には入りにくい世界ですが、ルールさえ守れば日本の伝統文化を感じながら楽しめる、ほかにはない特別感を味わえるところです。 まずは親しみやすいと評判の浅草のお座敷、トライしてみてはいかがでしょう。

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